細胞膜ドメインはがん細胞の悪性形質発現に極めて重要な役割を果たしているが、その機能調節機構に関する知見は乏しい。本研究では、脂質輸送と脂質代謝の連関を明らかにするとともに、脂質代謝変化が膜ドメイン機能に与える影響を解析することで、脂質輸送-脂質代謝連関ががんやその他の疾患に及ぼす影響について明らかにすることを目的としている。 昨年度に引き続き、コレステロール恒常性制御に重要な役割を果たしているコレステロール代謝産物である酸化ステロールに関する解析を行った。小胞体やミトコンドリアに発現する複数のコレステロール水酸化酵素によって、複数の酸化ステロールが細胞内で産生される。本年度は、細胞内で産生される内因性の酸化ステロールに焦点を当て、その脂質代謝に与える影響について解析を進めた。コレステロール代謝を最も強力制御する25-ヒドロキシコレステロール(25-HC)の産生を人為的にコントロールするため、テトラサイクリン誘導型CH25H発現細胞を作成し、詳細な解析を行った。その結果、CH25Hの発現はSREBP-2活性を速やかに抑制するのに対し、CH25Hを高発現させてもLXRの活性化にはほとんど影響しないことが示された。 本研究課題では、コレステロール輸送やコレステロール代謝産物の産生が転写因子SREBPを介した脂質代謝制御機構に及ぼす影響などについて解析を行い、細胞内コレステロール輸送とコレステロール代謝調節機構が密接に連関していることを明らかにするとともに、コレステロールによる膜ドメインの形成や機能に与える影響について明らかにした。これらの解析を通じ、脂質輸送と脂質代謝の連関ががん細胞の悪性形質に重要な役割を果たしていることを示した。
|