研究課題/領域番号 |
16K08623
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
佐藤 朗 滋賀医科大学, 医学部, 准教授 (70464302)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Wnt5a / 腸管炎症 / 線維芽細胞 / 上皮修復 |
研究実績の概要 |
現在までに、私共はWnt5aシグナルが樹状細胞に作用しTh1応答を増強することで腸管炎症病態の増悪に関与することを明らかにしているが、炎症病態からの回復過程におけるWnt5aシグナルの役割は依然として不明のままである。本年度は、炎症を伴う腸管上皮修復過程におけるWnt5aシグナルの意義を明らかにするために、下記の実験を行った。 1)Wnt5aは腸管炎症病態において線維芽細胞に高発現する。そこで線維芽細胞特異的転写因子Twist2遺伝子座にCreERをノックインしたTwist2-CreERノックインマウスの作製を行い、線維芽細胞特異的Wnt5aノックアウトマウスの作製を試みた。目的通りCreERがノックインされていることを確認した3系統のマウスにおいて、ROSA-YFPマウスとの掛け合わせを行い、タモキシフェン依存性YFP発現を検討したが、CreERと共にYFPの明らかな発現を検出できなかった。 2)抗Wnt5a抗体を用いた組織免疫染色によって、腸管上皮修復過程におけるWnt5aの発現様式の解析を行い、潰瘍部線維芽細胞でのWnt5aの高発現が、上皮の修復過程が進むに連れて減弱し、潰瘍が一層の上皮組織に完全に覆われると、その発現は検出されなくなることが明らかになった。 3)腸管線維芽細胞初代培養系において、Wnt5aの発現に関わるシグナル分子として見出されたTGFβに関して、TGFβ受容体特異的阻害剤の経時的投与を行い、DSS投与9日目の大腸におけるWnt5aの発現を観察した。その結果、阻害剤投与群ではWnt5aの発現の顕著な減弱が観察されたため、個体レベルにおいてもTGFβシグナルによってWnt5aの発現が制御されることを明らかにした。 本年度の解析結果は、Wnt5aシグナルを介する腸管炎症増悪機構解明の一助になると考えられ、学術的に進展があったものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
DSS誘発性腸管炎症病態におけるWnt5aの発現が線維芽細胞特異的であったため、線維芽細胞特異的にWnt5aを欠失させることを目的にTwist2-CreERノックインマウスの作製を試みた。しかし、CreERが正規にノックインされている3系統において、CreERの発現が検出されず作製が上手くいかなかったことから、上記の評価となった。 しかし、個体レベルにおける腸管炎症回復時のWnt5aの発現様式が明らかになり、さらにTGFβ阻害剤を用いて、実際の大腸においてもWnt5aの発現制御にはTGFβシグナルが関与していたことが明らかになった点は評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
1)Twist2-CreERノックインマウスの作製がうまく行かなかったため方針変更を行い、線維芽細胞に高発現している中間径フィラメントVimentinに着目し、Vimentin遺伝子座にCreERを挿入したVimentin-CreERノックインマウスの作製を試みる予定である。このノックインマウスに関しては研究速度を上げるため、Crispr/Cas9システムによるゲノム編集技術を用いて行う。 2)腸管上皮修復過程におけるWnt5aシグナルの意義を検討する目的で、DSS投与前と投与終了直後のそれぞれの場合でタモキシフェン投与を行いWnt5aの欠失を試みて、Wnt5aシグナルの欠損が腸管上皮修復過程にどのような影響を及ぼすのか否かの検討を詳細に行う。また、同様の実験を、Wnt5a受容体Ror2のコンディショナルノックアウトマウスを用いて行う予定である。 3)生化学・分子生物学的手法を用いて、腸管線維芽細胞における炎症時のWnt5aの発現制御解析を行うためには、炎症病態を維持した線維芽細胞をFACSによって効率良く単離しなければならない。現在、私共は、線維芽細胞に高発現しているPDGF受容体に対する抗体を用いてFACSを行っている。しかし、DSS投与後に単離した大腸全体から直ぐに抽出したRNAと比べて、このFACSによって単離された線維芽細胞由来のRNAでは,炎症依存的なWnt5aの発現が既に減弱してしまっている傾向にある。そのため、炎症時のWnt5aの高発現を維持した状態で線維芽細胞を単離できる手法を検討する。この手法が確立できれば、線維芽細胞から抽出したゲノムDNA断片を用いて、転写活性化の指標となるヒストン修飾抗体(抗ヒストンH3アセチル化K27抗体)を用いたChIPseq解析を行うことで、DSS誘発性腸管炎症依存的にWnt5aの発現制御に関与するゲノム領域の同定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度作製を試みた”線維芽細胞特異的CreERを発現する遺伝子改変マウス”(Twist2-CreERノックインマウス)に関して、目的通りに機能せずに本研究に引き続き利用することが不可能になった。そのため、デザインの変更を行い、作製し直す必要性が生じたことが理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
上記理由欄に記載した遺伝子改変マウスの作製に関して、再度デザインを変更して作製し直すための費用が追加で必要になる。そのため、この遺伝子改変マウス(Vimentin-CreERノックインマウス)の創出に関する新たな実験に使用する計画である。
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