研究課題
現在までに、私共はWnt5aシグナルが樹状細胞に作用し、Th1応答を増強することで腸管炎症病態の増悪に関与することを明らかにしているが、炎症病態からの回復過程におけるWnt5aシグナルの役割は依然として不明のままである。本年度は、炎症を伴う腸管上皮修復過程におけるWnt5aシグナルの意義を明らかにするために、下記の実験を行った。Wnt5aは腸管炎症病態において、線維芽細胞に高発現する。そこで、線維芽細胞に高発現している中間径フィラメントVimentinに着目し、Vimentin遺伝子座にCreERを挿入したVimentin-CreERノックインマウスの作製をCrispr/Cas9システムによるゲノム編集技術を用いて試みた。まず、Vimentinの1st ATGにCreERを挿入したTargetting vectorとVimentin 1st ATGを含むExon1領域でデザインを行なったguide RNAの発現ベクター(pX459 ver2-Vimentin gRNA)を構築した。SSA assayにより、Vimentin guide RNAが確かに標的Exon1を切断することを確認後、これらのvectorをES細胞に導入して薬剤選択により96個のESクローンが得られた。Genotypingの結果、目的通りにCreERが挿入されたES細胞クローンが28個得られた。この28個のESクローンを用いて、定常状態でのCreERの発現を定量的RT-PCRによって確認したところ、6クローンを選別できた。この6クローンの核型の正常率は全て60%を超えていたため、これらのクローンを用いてキメラマウスの作製を行なっている最中である。本年度の解析結果は、Wnt5aシグナルを介する腸管上皮修復過程の機構解明の一助になると考えられ、学術的には進展があったものと考えられる。
3: やや遅れている
Vimentin-CreERマウスの作製に多くの時間を費やしてしまい、他の実験が中々進んでいない状況であったことから、上記の評価となった。しかし、CreERがVimentin遺伝子座に目的通りにノックインされたESクローンが複数単離され、現在、これらのESクローンをマウス受精卵に戻すことによって、キメラマウスの作製を順調に行えている点は評価できる。
1)Vimentin-CreERノックインキメラマウスのうち生殖細胞系伝達が行われた系統を選別し、Wnt5a floxマウスとの掛け合わせを行う。その結果、得られたVimentin-CreER; Wnt5a floxマウスを用いて、線維芽細胞特異的Wnt5aコンディショナルノックアウトマウスの作製を行い、腸管上皮修復過程における表現型の解析を行う予定である。2)腸管上皮修復過程におけるWnt5aシグナルの意義を検討する目的で、DSS投与前と投与終了直後のそれぞれの場合でタモキシフェン投与を行いWnt5aの欠失を試みて、Wnt5aシグナルの欠損が腸管上皮修復過程にどのような影響を及ぼすのか否かの検討を詳細に行う。また、がん化した上皮細胞の増殖に対するWnt5aシグナルの効果も検討する目的で、アゾキシメタン(AOM)投与とDSS投与を組み合わせたAOM/DSS大腸がん形成モデルにおけるWnt5aシグナルの意義の検討も行う予定である。
平成30年度に使用するため
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Oncogene
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http://www.shiga-med.ac.jp/~hqbioch2/