研究課題
細胞間競合とは、免疫細胞を介さない同種細胞同士の細胞排除機構で、適応度の高い細胞が生き残り、低い細胞が組織から排除される細胞間コミュニケーション制御機構である。細胞間コミュニケーションの研究はショウジョウバエを用いた研究が先行しているが、近年哺乳類培養細胞を用いた実験でも細胞間競合現象が生じることが示された。しかし、哺乳類の細胞間競合に関与する遺伝子群や、生体内における生理学的意義についてはほとんど分かっていない。ショウジョウバエにおいてはHippo経路によって負に制御される転写共役因子Ykiが活性化した細胞は、競合の「勝者」となることが示されているが、YAP1/TAZ(Ykiの哺乳類ホモログ)の細胞競合における役割は不明である。本研究では哺乳類YAP1/TAZによる細胞間コミュニケーションとその破綻病態の解析を目的としている。二次元培養下の哺乳類細胞株においては、YAP1活性化細胞が野生型細胞に対して「敗者」となることから、平成29年度はYAP1活性化細胞が「敗者」となる機構を探索するため、YAP1/TAZ特異的高感度転写活性レポーター細胞とsiRNAライブラリーを用いたスクリーニングによるYAP1/TAZを介する細胞間競合関連分子の同定を試み、1次スクリーニングを終えた。また、YAP1/TAZ下流で「競合」を引き起こす最終標的の同定するためにマイクロアレイ解析を行い、YAP1活性化細胞では接着関連分子の発現変化を認めた。実際にdishの接着性を変化させると接着性依存性にYAP1活性化細胞が野生型細胞に対して「勝者」となることから、野生型細胞の接着性依存性の増殖能力とYAP1活性化細胞による足場非依存性増殖能力のバランスで、哺乳動物細胞における「競合」現象が変化することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は哺乳類細胞株において、YAP1活性化細胞が排除される機構を明らかにするため、ライブラリースクリーニングによるYAP1/TAZを介する細胞間競合関連分子の同定を行った。1) siRNAライブラリースクリーニングによるYAP1/TAZ制御細胞膜表面分子の同定:所属研究室が樹立したYAP1/TAZ特異的高感度転写活性レポーター系と、siRNAライブラリーを用いることによって、YAP1/TAZによる転写活性が抑制される分子群と促進させる分子群の網羅的にスクリーニングを試み、1次スクリーニングを終えた。2) YAP1/TAZ下流で細胞競合を引き起こす最終標的の同定:マイクロアレイ解析によりYAP1活性化細胞と正常細胞単独培養及び細胞競合時に遺伝子発現変化のある分子の探索を行った。接着関連分子の発現が大きく変化していたことから、接着分子に注目し解析を進めた。実際に二次元培養下のPAM細胞では、YAP1活性化細胞はdishへの接着能力が低く上方に突出し、野生型細胞は扁平な形態でdish底により強く接触していたことから、野生型細胞では接着による増殖シグナルが高いため「勝者」になることが示唆された。また、dishの接着性を変化させると低接着dish培養下ではYAP1活性化細胞が野生型細胞に対して「勝者」となった。これらから哺乳類細胞株でみられる細胞競合現象は接着による増殖シグナルと足場非依存性増殖能力のバランスによる可能性を見出した。
平成30年度は平成29年度に引き続き、哺乳類細胞株において、YAP1活性化細胞が排除される機構を明らかにするため、ライブラリースクリーニングによるYAP1/TAZを介する細胞間競合関連分子の同定を行う。1) siRNAライブラリースクリーニングによるYAP1/TAZ制御細胞膜表面分子の同定:平成29年度に行った1次スクリーニングで得られたYAP1/TAZによる転写活性が抑制される分子群と促進させる分子群のうち、分泌蛋白質・細胞膜発現蛋白質・細胞死や細胞周期関連分子などを選択して候補分子の絞り込みを行う。2) YAP1/TAZ下流で細胞競合を引き起こす最終標的の同定:平成29年度に行ったマイクロアレイ解析から「競合」への接着関連分子の関与が示唆されたため、これらの分子群に注目し、より詳細な解析を行い確証を得る。3) YAP1/TAZによるin vivo細胞間競合可視化モデルの作製・解析:皮膚移植モデルで見られた現象が細胞間競合現象であるか検証を行うともに、他のモデルを模索する。
(理由)当初の予定より、ライブラリースクリーニング系の立ち上げが順調に進行したために使用する測定試薬の費用が安価で済んだため繰越金額が生じた。(使用計画)次年度使用額はライブラリースクリーニングより得られた分子のsiRNAや抗体などの消耗品購入に充てる予定である。
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