研究課題/領域番号 |
16K08628
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
鎌田 徹 宮崎大学, フロンティア科学実験総合センター, 客員研究員 (40056304)
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研究分担者 |
森下 和広 宮崎大学, 医学部, 教授 (80260321)
中畑 新吾 宮崎大学, 医学部, 助教 (80437938)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | NADPH oxidase(Nox) / 活性酸素 / 分子腫瘍学 / HTLV-1 |
研究実績の概要 |
HTLV-1ウイルス感染を原因とするATL(成人性T細胞白血病)の発症に寄与するNox5alphaの下流レドックスシグナル伝達機構を分子レベルで検討し、以下の実績を得た。 (1). HTLV-1感染細胞株(MT1, MT2)においてNox5alpha由来ROSが、レドックス蛋白である癌抑制遺伝子PTENを酸化する可能性を検討したが、PTENは酸化修飾されず、PTENはNox5alphaの標的ではないと考えられた。(2). そこで、他のレドックス蛋白protein tyrosine phosphatase-1B (PTP-1B)の可能性を検討した。PTP-1BのCys残基の5’-iodoacetamide fluorescien標識法と免疫沈降で解析した結果、Nox5alphaは、PTP1-Bを酸化することがわかった。(3).さらに、PTP1Bの下流シグナルを明らかにする過程で、好気性解糖系でtyrosine リン酸化されている調節酵素pyruvate kinase 2 (PKM2)に、PTP-1Bが結合していることを見出した。(4). NoxファミリーのNox1を高発現している大腸癌細胞でも、Nox1由来ROSはPTP-1BのCys残基を酸化し、かつPTP-1BがPKM2に結合していることが分かった。このことから、PTP-1Bが広範にNoxファミリーのROSセンサーとなっていることが示唆された。PKM2は解糖系から分枝したペントースリン酸回路の律速酵素なので、これらの結果から、Nox5alphaとNox1はPTP1Bを介してシグナル伝達を行い、PKM2リン酸化を経てペントースリン酸回路と巨大分子合成を増強することにより(ワールブルク効果)、癌細胞の増殖に寄与するという仮説を立てるに至った。今後、HTLV-1感染細胞と大腸癌細胞でこの仮説をさらに検証していく計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画書の第一課題、「HTLV-1感染細胞においてNox5alpha のシグナル伝達機構」に関して、当初の研究計画で出されたPTENがNox5alphaのROSセンサーであるという作業仮説は検討の結果、否定されたが、新たにPTP-1BがそのROSのセンサーであることを明らかにすることができた。さらに、PTP-1Bがtyrosineリン酸化されたPKM2と結合することも見出した。我々は、以前の研究で、他のNoxファミリーであるNox1が大腸癌の発症に寄与するという知見を得ていた。そのNox1についても,大腸癌細胞で同様なPTP-1B,PKM2へのシグナル経路の関わりあいが見いだされ、このことから、このNoxファミリーのシグナル伝達様式は癌細胞で広範に共有されていると考えられ、今後の研究の進展、展開が期待される興味深い成果が得られたと考える。一方、上記の課題に、実験システムの立ち上げ、試薬の調整を含めて、かなりの時間をさかざるをえなかったため、計画書にあったもう一つの課題, 「HTLV-1感染細胞におけるNox5alphaの発現レベルの亢進の分子機構に関する研究」には手がまわらず保留した。第一課題に重要な発見があったことは特筆すべきである。以上から、おおむね順調であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
1.今後の研究計画 Nox5alphaおよびNox1がPTP-1Bを介して、各々、HTLV1癌化細胞と大腸癌細胞で如何にPKM2を制御するのかをPKM2のtyrosineリン酸化、酵素活性に焦点をあてて生化学的に検討する。これと並行して、解糖系の中間代謝産物のレベルおよび癌細胞増殖がNox5alphaまたはNox1-PTP1B-PKM2のシグナルと連動しているかを放射性同位元素トレーサーなどを用いて解析する。さらに動物レベルでの腫瘍形成過程で、中間代謝産物を分析し、in vitroの実験系との相関性を検討する。 2.研究計画の変更 上記のように新展開した研究方向の重要性に鑑み、Nox5alphaおよびNox1がPTP-1Bを介して、各々、HTLV1癌化細胞と大腸癌細胞の解糖系代謝調節にシグナルを伝達し、癌細胞増殖に寄与する機構の解明に専念することとする。それに費やされる時間の量を考慮すると、当初の研究計画にあった第二課題「HTLV1癌化細胞におけるNox5alpha発現の亢進の機構に関する研究」を遂行することは無理であると判断し、これをとり行わないこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の実験に必要とした消耗品(試薬)は、、すでに購入した分で、十分間に合ったため、物品費が若干残った。この分を次年度、必要になってくる酵素類の購入にあてたいが、あらかじめ買ってストックしても失活していくので、次年度にくりこして、使用時に購入費用にあてた方が有効と判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の助成金として請求した分と合わせtて、試薬(不安定な酵素類を含むキット)の購入に充てる。
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