研究実績の概要 |
1)HTLV-1によるT細胞癌化を媒介するNox5alphaのROSシグナルの下流標的を解析した。①我々は昨年の研究で、protein tyrosine phosphatase-1B(PTP-1B)が、Nox5alpha由来のH2O2によって酸化不活化されることを明らかにしたが、さらに基質蛋白と結合するPTP-1B trapping mutant を用いて、 PTP-1Bが作用するtyrosineリン酸化蛋白の候補を同定することに成功した。②Nox5alphaのROSシグナルがlactate dehydrogenase A(LDHA)の発現を誘導し、乳酸産生を高めglucose代謝を促進していることを生化学的につきとめ、glucose代謝の他の律速酵素の発現もNox5alphaによって調節されることをcDNA microarrayによって見出した。③同様にglutamine代謝の律速酵素の発現調節にもNox5alphaがかかわることを見出した。 (2)我々は、すでにNoxファミリーのNox4がすい臓がん細胞の維持に必須であることを明らかにしているが、そのNox4のROSシグナル伝達も解析した。その結果、①最近の論調に反して、発がん遺伝子K-Ras oncogene によってNox4の過剰発現が誘導され確かにNox4は癌化過程に重要であることを示した。②誘導されたNox4はglucose代謝のLDHA発現を誘導し乳酸生成を促し、さらに他の律速酵素も調節する、③また細胞内NADPHレベルを増加して細胞内の還元的環境に寄与することを明らかにした。 以上の結果からNox4, Nox5alphaのROSシグナルは、癌細胞のglucose, glutamine代謝を亢進してその細胞増殖に寄与することを新たに解明した。
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