研究課題/領域番号 |
16K08632
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
槇島 誠 日本大学, 医学部, 教授 (70346146)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 核内受容体 / ビタミンD受容体 / 肝炎 / Kupffer細胞 / 活性酸素種 |
研究実績の概要 |
前年度にVDR欠損マウスにおいてコンカナバリンA(以下Con-A)誘導性急性肝炎が減弱するメカニズムを検証した結果、VDR欠損においてKupffer細胞が担う活性酸素種産生が減弱する知見が得られたため、本年度はKupffer細胞の機能におけるVDRの影響を以下の解析によって検証した。 1、野生型またはVDR欠損マウスの肝非実質細胞に存在する肝Kupffer細胞の分布をフローサイトメトリーを用いて再度検討した結果、VDR欠損マウスは野生型との差異を認めなかった。肝組織の免疫染色においてF4/80の発現を評価したが、野生型と同様の発現分布を示した。肝臓免疫細胞におけるマクロファージマーカー遺伝子群の発現をリアルタイムPCRを用いて評価したが、両マウスで差を認めなかった。以上の結果から、VDR欠損マウスのKupffer細胞は通常飼育下では変化を認めないことが明らかとなった。 2、Kupffer細胞の代表的な機能として貪食能をin vivoで検討した。野生型またはVDR欠損マウスに蛍光標識ビーズを投与し、貪食したKupffer細胞の数をフローサイトメトリーを用いて評価した。その結果、VDR欠損においてKupffer細胞および好中球における貪食能は低下した。 3、VDR欠損マウスにおいてビーズの貪食能が低下したため、肝臓免疫細胞における貪食関与遺伝子であるMertkやGas6などの発現をリアルタイムPCRを用いて評価した。その結果、野生型とVDR欠損間での差は認めず、VDRは関連遺伝子群の発現ではなく活性レベルで関与することが示唆された。 以上の検討によりVDR欠損マウスのKupffer細胞において活性酸素種産生のみならず貪食能が低下していることが示された。今後はVDR欠損Kupffer細胞における機能障害メカニズムについてさらなる検証を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、昨年度の免疫原性肝炎の免疫細胞に対するVDR欠損の影響について検証した結果得られた、VDR欠損マウスの肝臓においてCon-A誘導性肝障害発症に必要な活性酸素種産生が減弱する知見に基づき、活性酸素産生には肝常在Kupffer細胞が関与することからVDR欠損マウスのKupffer細胞に着目して検討を行った。その結果、Kupffer細胞の活性酸素種産生以外の代表的な機能である貪食能についてもVDR欠損マウスにおいて減弱が認められたことから、VDRはKupffer細胞の機能維持に重要な役割を担う可能性が示された。これまで、肝臓におけるVDRの機能はほとんど解析されていないこと、Kupffer細胞は卵黄嚢または胎生期肝臓由来であるため骨髄移植には抵抗性であり解析が難しいことからも、我々が見出した肝常在Kupffer細胞におけるVDRの重要性は肝臓免疫分野における新しい知見であり、研究活動は順調に進行していると判断した。 アダマンタン環を有する新規ビタミンD誘導体の生物活性評価及びビタミンDシグナルの胆汁酸代謝への影響の解析も進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に実施したVDR欠損マウスのKupffer細胞の機能解析において、蛍光ビーズの貪食能が低下するという新しい知見が得られた。一方、VDR欠損マウスは通常飼育下では細胞分布や遺伝子発現パターンに変化を認めないこと、貪食関連遺伝子発現にも変化を認めなかったことから、VDRによるKupffer細胞の機能調節は複雑に制御されており、解析には時間を要することが予想される。そこで、現在はCon-A肝炎におけるVDR欠損の影響について論文作成に着手しており、論文発表後にKupffer細胞のsorting、単離した細胞を用いた遺伝子発現解析、活性酸素種産生能、貪食能評価、組織特異的VDR欠損マウスの解析などさらなる解析を進める予定である。 ビタミンDや新規ビタミンD誘導体の投与実験やビタミンDシグナルによる免疫・胆汁酸代謝調節の解析をさらに進める予定である。
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