研究課題/領域番号 |
16K08633
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研究機関 | 鈴鹿医療科学大学 |
研究代表者 |
鈴木 宏治 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 教授 (70077808)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 抗凝固薬 / Xa因子 / DOACs / NOACs / 抗腫瘍作用 / 腫瘍増殖抑制 / 大腸がん細胞 |
研究実績の概要 |
直接経口抗凝固薬(DOACs、NOACsとも呼ばれる)は、その抗Xa作用または抗トロンビン作用により、非弁膜症性心房細動による脳血栓塞栓症の予防薬として、また、下肢深部静脈血栓症などの予防薬としても用いられている。これまでの臨床研究で腫瘍患者は高率で血栓塞栓症を発症し、DOACsが腫瘍患者の血栓塞栓症の発症を予防することが明らかにされている。しかし、腫瘍の発症や進展に及ぼすDOACsの影響については明らかではない。そこで本研究では、DOACsの抗腫瘍作用について、特に大腸がん細胞(Colon-26)を移植した担癌マウスを用いて解析した。方法には、雄性マウス(5週齢)にColon-26細胞(1×105個)を下肢大腿部皮下に投与し、生着が確認された担癌マウスに7日後からDOACsの抗トロンビン薬(薬物A)あるいは抗Xa薬(薬物B、薬物C)を経口ゾンデにて連日投与した。各週に腫瘍サイズを測定し、21日目のマウスから血液および腫瘍組織を採取し、解析を行った。その結果、3種のDOACsのうち、特に抗Xa作用を示す薬物Bに投与量依存性の腫瘍増殖抑制作用が認められた。この薬物Bは血中の炎症マーカーのIL-6の発現や組織マトリックス溶解酵素のMMP-2の発現を抑制した。また、薬物Bには、腫瘍組織の細胞分裂関連因子の発現を抑制することが判明した。今後、この薬物Bの抗腫瘍作用のメカニズムについて、in vitro実験にて培養腫瘍細胞の増殖と腫瘍関連遺伝子の発現に及ぼす薬物Bの影響、およびin vivo実験にて担癌マウスの腫瘍組織におけるXa因子受容体など各種腫瘍関連分子の発現に及ぼす薬物Bの影響を解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、DOACsの抗腫瘍作用について、特に大腸がん細胞(Colon-26)を移植した担癌マウスを用いて解析した。方法には、雄性マウス(5週齢)にColon-26細胞(1×105個)を下肢大腿部皮下に投与し、生着が確認された担癌マウスに7日後からDOACsの抗トロンビン薬(薬物A)あるいは抗Xa薬(薬物B、薬物C)を経口ゾンデにて連日投与した。各週に腫瘍サイズを測定し、21日目のマウスから血液および腫瘍組織を採取し、解析を行った。 その結果、3種のDOACsのうち、特に抗Xa作用を示す薬物Bに投与量依存性の腫瘍増殖抑制作用が認められた。次に、薬物Bの至適投与量を明らかにするため、異なる投与量の腫瘍サイズに及ぼす影響を検討した結果、薬物Bの濃度依存性に腫瘍増殖抑制効果が認められ、10 mg / kg/ 日の投与量が適正投与量であることが明らかになった。この薬物Bは血中の炎症マーカーのIL-6の発現や組織マトリックス溶解酵素のMMP-2の発現を抑制した。また、薬物Bには、腫瘍組織の細胞分裂関連因子の発現を抑制することが判明した。 以上の担癌マウスを用いたin vivo実験に加えて、現在、in vitro実験において、Colon-26細胞の増殖と腫瘍関連遺伝子の発現に及ぼす薬物Bの影響を解析している。
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今後の研究の推進方策 |
直接経口抗凝固薬(DOACs)は、これまで長年用いられてきた経口抗凝固約のワルファリンの代替薬として開発されたものであり、凝固因子のXa因子やトロンビンを直接阻害する薬物であり、ワルファリンに見られる出血性副作用や食物との相互作用が少ないことから、現在では非弁膜症性心房細動による脳血栓塞栓症の予防、また、下肢深部静脈血栓症などの予防に用いられている。これまでのメタ臨床研究で腫瘍患者は高頻度に深部静脈血栓症(DVT)などの血栓塞栓症を発症し、重篤な場合は播種性血管内凝固症候群(DIC)を来たすことが知られている。こうした腫瘍関連血栓塞栓症に対してもDOACsが有効なことが示唆されている。しかし、血栓塞栓症の発症を予防する目的で投与されたDOACsが患者の腫瘍の増大や転移にどのような効果を及ぼすのか、全く明らかでない。そこで本研究では、DOACsの抗腫瘍作用について、特に大腸がん細胞(Colon-26)を移植した担癌マウスを用いて解析した。その結果、検討したDOACsのうち、特に抗Xa作用を示す薬物Bに投与量依存性の腫瘍増殖抑制作用が認められ、この薬物Bは血中の炎症マーカーIL-6の発現や組織マトリックス溶解酵素MMP-2の発現を抑制し、また、腫瘍組織の細胞分裂関連因子の発現を抑制することが判明した。こうしたこれまでの結果に基づき、今後は、この薬物Bの抗腫瘍作用の分子機序を明らかにするため、in vitro実験において培養腫瘍細胞の増殖と腫瘍関連遺伝子の発現に及ぼす薬物Bの影響、また、in vivo実験において担癌マウスの腫瘍組織におけるXa因子受容体など各種腫瘍関連分子の発現に及ぼす薬物Bの影響を解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 今年度は、主に研究に必要な試薬等の購入、実験補助者の人件費の支払いに用いたが、10,014円が未使用で終わった。少ない残高であり、適正な使用であったと思われる。 (使用計画) 次年度も継続して研究を行うので、今年度の残高は次年度に早々に使用する予定である。
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