非ビタミンK依存性経口抗凝固薬(NOACs、直接経口抗凝固薬:DOACsと呼ばれる)は、その抗Xa作用または抗トロンビン作用により、非弁膜症性心房細動による脳血栓塞栓症の予防薬として、また、下肢深部静脈血栓症などの予防薬としても用いられている。これまでの臨床研究で腫瘍患者は高率で血栓塞栓症を発症し、NOACsが腫瘍患者の血栓塞栓症の発症を予防することが明らかにされている。しかし、腫瘍の発症や進展に及ぼすNOACsの影響については明らかではない。そこで本研究では、NOACsの抗腫瘍作用について、特に大腸がん細胞(Colon-26)を移植した担癌マウスを用いて解析した。方法には、雄性マウス(5週齢)にColon-26細胞(1×10^5個)を下肢大腿部皮下に投与し、生着が確認された担癌マウスに7日後からNOACsの抗トロンビン薬(薬物A)あるいは抗Xa薬(薬物B、薬物C)を経口ゾンデにて連日投与した。各週に腫瘍サイズを測定し、21日目のマウスから血液および腫瘍組織を採取し、解析を行った。その結果、3種のNOACsのうち、特に抗Xa作用を示す薬物Bに投与量依存性の腫瘍増殖抑制作用が認められた。この薬物Bは血中の炎症マーカーのIL-6の発現や組織マトリックス溶解酵素のMMP-2の発現を抑制した。また、薬物Bには、腫瘍組織の細胞膜Xa因子受容体の発現を抑制するとともに細胞分裂関連因子の発現を抑制し、腫瘍組織細胞のアポトーシスを促進させることが判明した。しかし、薬物Bは血管新生に関わるVEGFならびにVEGF受容体の発現量には影響を与えなかった。他方、薬物Bは尾静脈投与メラノーマ細胞の肺、肝臓、腎臓への転移も投与量依存性に抑制した。現在、これらのデータを整理して海外一流雑誌に投稿準備を行っている。
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