研究課題
1.ぺプチジルアルギニンデイミナーゼタイプ4遺伝子(PADI4)欠損マウスの解析GWASにより同定されたぺプチジルアルギニンデイミナーゼタイプ4遺伝子(PADI4)欠損マウスについて、関節リウマチモデルマウス実験を行ったところ、コラーゲン誘導型関節炎が欠損マウスでは発症率が有意に低下した。さらにPADI4遺伝子には他のPADI遺伝子群があり、遺伝子発現組織や発現時期が様々にことなるが、PADI4の遺伝子を欠損させることでこれらの遺伝子ファミリーのうち、PADI2、PADI6遺伝子が誘導され、PADI4の機能的欠損を補っている可能性が示唆された。そのため、PADI4の欠損により誘導されるPADIの中でも最も遺伝子発現領域も重複し、また、GWASでも異なるコホートによっては関連が示唆されているPADI2遺伝子を欠損したマウスを作製し、その解析を行っている。PADI2遺伝子を欠損させたマウスをもちいて、PADI4ノックアウトと同様に関節炎誘導実験を実施したところ、PADI4と同様に関節炎の抑制が観察された。しかしながらマウスの背景によっては結果にばらつきが多いため、より正確なデータを得るためには現在遺伝背景をCL57B6マウスから、DBA1Jマウスに変換している。2.関節炎モデルマウスの統合解析PADI4をはじめとするGWAS関連遺伝子の関節炎における発現等の影響を解析することを目的とし、関節炎モデルマウスの時系列解析を行い、発症に伴い遺伝子の変化を詳細に調べる。関節炎モデルマウスのひとつであるSKGマウスの関節炎発症を誘導し、関節、末梢血分画、脾臓等、関節リウマチと関連する組織でホールトランスクリプトーム解析を行い、現在解析中である。これらの解析により関節リウマチ関連遺伝子として同定された遺伝子群がどのような挙動を示すか明らかにすることができる。
2: おおむね順調に進展している
GWAS関連遺伝子の機能解析は、多因子性疾患の場合、対象となる遺伝子の多さからも困難である。また疾患関連遺伝子について、もともと知られている遺伝子機能から疾患への関与を推察していても、発症との機能的関連を直接的に明確に出来ていないケースも多い。これまでGWASで見つかった遺伝子の中で比較的関節炎との関係を予想できる遺伝子を中心にノックアウトマウスを作製し、関節炎誘導実験を行い、GWAS遺伝子が実際に関節炎の発症に関わるか否かを調べることを主として行っていたが、当然ながら、すべてのGWAS遺伝子が関節炎発症に関わっているわけではなかった。関節リウマチに関連遺伝子が関わる場合、様々な段階での寄与があり、たとえば発症の段階で関わる遺伝子や増悪の段階で関わる遺伝子、自己抗体の産生で関わる遺伝子など、多岐に渡るため、それらをすべて調べるだけでも困難であり、また多数のGWAS遺伝子を対象とした場合、遺伝子改変マウス作製に膨大な時間がかかってしまうという難点があった。しかし、技術的革新により、様々なオミックス解析を加えることで、GWAS遺伝子が集中的に関わるパスウェイであったり、どの転写因子を介して関わってくるかを含めてある程度の情報を得ることが可能となっている。モデル動物の場合、表現型が関節炎であるものは様々に存在し、関節炎を発症するメカニズムも様々であると考えられる。ヒトの関節リウマチについても、全世界で行われたGWAS解析が、人種によって結果が異なっていたということからも、様々なメカニズムを経て、最終的に同じ表現型として発症するまでの経路が多様であることを示唆している。そこで複数の関節炎マウスの解析を実行し、最も関節炎に重点的に影響する遺伝子について遺伝子改変マウス実験を行う手法を並列して行うことで、より確実な関節炎発症メカニズム解明につながると考えている。
次世代シーケンサーの普及により、実際の遺伝子発現量解析やエピゲノム解析等をターゲット遺伝子やサイトカインなどの炎症に関連の強い遺伝子のみで実施するのではなく、すべての遺伝子を対象に実施することが可能となり、GWAS関連遺伝子そのもののみを調べるのではなく、これらのつながりがどのようなものであるかも含めて全体を調べることが可能となった。GWAS関連遺伝子が、どのように関節炎発症に影響するかだけではなく、それが発症という現象の中でどのような位置づけで、どのように変化することで発症につながっていくのかを全体像として知ることが出来るようになってきている。これらの解析は疾患の全体像を捉えるためには非常に効果的であるが、予算については従来よりも遺伝子当たりのコストは下がるが、解析データ自体は対象が増える分、全体のコストは上がる。安価なコストで実施できる、あるいは一つの解析で複数の対象まで解析可能となるような技術開発があるとより進展が期待できる。またマウスと人間では共通するシステムと、まったく異なるシステムと存在しているため、ヒトでも可能な限りデータを取るよう、現在準備中である。
解析のためのコストが非常に高額のため、単年度予算では支払いが出来ないので、1年分でまとめて支払う必要性があったため。また前年度購入分で実施予定実験がすべてまかなえたため、新規購入を必要としなかったため、旅費のみの支出となった。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)
Nat. Med.
巻: 24 ページ: 232-238
10.1038/nm.4462
Cell Reports
巻: 22 ページ: 1473-1483
https://doi.org/10.1016/j.celrep.2018.01.031