研究課題
本年度は、グリア細胞で働き、神経機能および神経変性に対して加齢依存的に影響を及ぼすToll様受容体の探索を完了した。次に、アルツハイマー病を始め多くの神経変性疾患に関わる、タウの神経毒性に影響を及ぼすToll様受容体の網羅的な探索を開始した。新規に作製したタウ神経毒性モデル(神経細胞でタウを過剰発現し、かつグリア細胞で遺伝子発現を操作できる系統)脳において、どのToll様受容体の発現レベルが変動しているかを、定量的RT-PCRを用いて網羅的に調べた。その結果、神経細胞でのタウの発現に伴い、9種類のうち、1つのToll様受容体の発現レベルが上昇することが分かった。この結果は、従来のタウ神経毒性モデル(ショウジョウバエ複眼の神経細胞にタウを過剰発現することで神経変性が惹起される)においても再現され、このToll様受容体はタウが引き起こす神経変性により発現が誘導されると考えられた。次に、従来のタウ神経毒性モデルを用い、このToll様受容体の発現が保護的であるのか、有害であるのかを調べた。同定したToll様受容体の発現をRNAi法で抑制する、またはノックアウト系統と交配して発現レベルを半減させると、タウによって惹起される神経変性の程度が増悪化することを見出した。一方で、その他のToll様受容体の発現抑制ではタウによる神経変性の程度が変化しなかったことから、同定したToll様受容体の効果が特異的であることが示唆された。以上の結果より、9種類のToll様受容体のうちの一つが、タウが惹起する神経毒性に対して保護的作用を担っている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、タウが惹起する神経変性に伴い発現が変動するToll様受容体を同定した。さらに複眼タウ神経毒性モデルを用いた解析から、同定したToll様受容体が保護的効果を持つことを確認した。現在、新規タウ神経毒性モデルを用いて、グリア細胞における神経保護効果を解析しており、実験全体として大幅な遅れは生じていない。
従来の複眼タウ神経毒性モデルでは、神経細胞でタウを過剰発現するとともに、同じ細胞でしかToll様受容体の発現レベルを操作できなかった。平成30年度は、新規のタウ神経毒性モデル(神経細胞でタウを発現し、かつグリア細胞でToll様受容体の遺伝子発現を操作できる系統)を用いて、今回発見したToll様受容体がグリア細胞で発現し、タウが惹起する神経変性に対して保護作用を持つかを検討する。
当該年度の研究は概ね順調に進んだが、キャンペーン期間を極力使用する等、消耗品費を効率的に使用したことで余剰金が生じた。翌年度の助成金は、消耗品費とともに、パート研究補助員を雇用することで研究を加速し、さらに学会参加費、論文校正・出版費として使用する予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Genome Medicine
巻: 10 ページ: -
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