前年度、エンドソームにおけるBRCA2のパートナーとしてマススペクトル解析により候補となったRab11-FIP3をターゲットとして検証を行ったが、両者の相互作用の確定には至らなかった。そこで今年度は、リサイクリングエンドソームにおけるBRCA2の直接的なパートナーを探索するという方針を転換し、①BRCA遺伝子変異が多くみられるトリプルネガティブ乳がんとリサイクリングエンドソームとの関連についての検証、②細胞内小胞の融合や分断にBRCA2が関与する可能性に視野を広げたターゲット探索を行った。まず①について、研究者分担者によるトリプルネガティブ乳がん発現データ解析から、LRP8 というLDLレセプターがトリプルネガティブ乳がん特異的に高発現していることがわかった。LRP8は細胞膜上に存在してエンドサイトーシスされリサイクルされることが知られている。がんの増殖能に対するLRP8の影響について、LRP8発現抑制したトリプルネガティブ乳がん細胞株MDA-MB-231およびBT-549を用いて検証した。その結果、がん増殖に対してLRP8は亢進に働いているものと考えられた。乳がんの転移先として知られる脳組織にはLRP8のリガンド Reelin が豊富に存在しており、LRP8のリサイクルが転移先の組織において活性化することで、がん増殖が促進される可能性が考えられる。また②については、BRCA1、2がミトコンドリアのオートファジー(マイトファジー)に関与するという報告が前年度発表されたことに基づき、ミトコンドリア損傷の有無によるBRCA2結合因子を比較検討した。その結果、過剰発現の系ではあるが、BRCA2-FLAGとミトコンドリア融合に関わる分子との相互作用を示すデータを得ることができた(未発表)。これら結果が、今後、遺伝性乳がん発症および悪性化のメカニズム解明につながることを期待したい。
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