研究課題
安全で、感染効率の高いAAV ベクター(rAAV)を大量調製するため、無血清細胞培養液を用いた異種成分不含(Xenogeneic Free)培養システムを用いてrAAVを作成し、超遠心分離を行わない簡易精製の可能なrAAV作成系の確立を目的としている。無血清細胞培養液として、組成が明らかな無タンパク質培地のchemically-defined Medium (CD培地)を使用し、ヒト由来培養細胞へプラスミドを遺伝子導入し、CD培地に組換えウイルスを分泌させる方法でAAVベクターを作成する異種成分不含システムを確立計画である。既に報告している超遠心分離操作を含まないrAAV 1および9の簡易精製方法を基盤技術として用い、rAAV 1または9パッケージングプラスミドに他の血清亜型のパッケージングプラスミドを混合比率を変えながら添加することにより、新たな宿主域を持ったハイブリッドrAAV1および9の作成を試みる予定でありました。 しかし 交付内定を頂いたのが平成28年10月21日でしたので、本申請に用いる基幹技術であるクロマトグラフィーのみでrAAV9を精製する方法をブラシュアップ中でした。精製の再現性、異なったウイルスゲノムを有するウイルス、ss- および. ds-ウイルスゲノムを持つrAAV 9等の精製を更に行い、それぞれが再現性良く、総力価が10E+14 ベクターゲノム程度のrAAV9 ベクターを得ること確認しました。次年は第二世代(7-8型、10型)のAAVパッケージングプラスミドを9型パッケージングプラスミドに種々の比率で混合添加することにより、表面荷電をあまり変更せずに、陰イオン交換樹脂に結合出来る形体の混合キャプシドを持つハイブリッドAAVベクターを作成・精製することを目標とします。新たな宿主域を持ったハイブリッドrAAV9の作成を試みる予定です。
4: 遅れている
科研費の交付内定を頂いたのが平成28年10月21日でしたので基幹技術となる “クロマトグラフィー技術のみで臨床応用可能な高品質なrAAV9 ベクター精製法の検討”を行っていました。rAAV1および9 の作製・粗精製法はともに共通で、3種のプラスミドをヒト由来のHEK293EB(遺伝子改変高rAAV 産生) 細胞に無血清培地内で遺伝子導入し、5日後に培養上清を回収し、限外濾過濃縮、硫酸アンモニウム(硫安)沈殿法にて粗精製を行ないます。硫安沈殿分画を陰イオン交換カラムに負荷し、カラムに吸着せずに流出する条件を探し出し、最終的にゲル濾過クロマトグラフィーで精製するという方法を確立しました。ウイルスゲノムとしてegfp 、luciferase、およびウイルスゲノム構造がss- またはds-であるもの等を用いてこの方法で精製したところ、ウイルスゲノム配列に非依存性、ゲノム構造にも非依存性で、それぞれが再現性良く、総力価が10E+14 ウイルスゲノム 以上のrAAV9 ベクターを大学実験室レベルの培養施設で調製できました。最終精製標品はin vitro の培養細胞で遺伝子発現能力を示し、SDS-PAGE, 抗AAVキャプシド・モノクロナル抗体を用いたウェスタンブロットからも、キャプシドタンパク質以外の夾雑タンパク質がほとんどないことも確認いたしました。遺伝子導入効率を低下させると考えられている中空粒子の混入率を電子顕微鏡観察から算出すると、どれも5%以下と、高純度に再現性をもって大量精製できる精製方法であることを確認しました。この成果を国際学術誌に現在投稿中で学会では既に報告しています。このウイルスゲノムに関わりなく高純度で、中空粒子の混入がほとんど無いrAAV9を精製できる方法を用いて、新たな宿主域を持ったハイブリッドrAAV9ベクターの作成を試みる予定です。
平成28年度に確立した再現性が高く、ウイルスのゲノム配列に対して非依存性であり、中空粒子の混入がほとんど無いrAAV9調製法を用いて、次年度より未だ精製方法が確立されていない(細胞受容体が未だに不明な)第二世代(7-8型、10型)のAAVパッケージングプラスミドを9型パッケージングプラスミドに種々の比率で混合添加することにより、新たな宿主域を持ったハイブリッドrAAV9ベクターの作成を試みる予定です。キャプシド・プラスミドを種々の比率で混合する事で、表面荷電をあまり変更せずに、陰イオン交換樹脂に結合出来る形態の混合キャプシドを持つハイブリッドAAVベクターを作成・精製することを目標とします。従来法を用いて調製されたrAAVベクターは、完全長のウイルスゲノムを含むもの、ベクターゲノムを欠く空の粒子、以外に断片化されたまたは不完全なベクターゲノムを含む多数の異なるウイルス種を含む集合体であることをBrenda Burnhamらはanalytical ultracentrifugation (AUC)を用いて報告しています(Human Therapy Methods, 26 ( 6) 228-242, 2015.)。これまでの臨床試験における遺伝子導入効率の低さの原因と考えられるこれらの不純物をAUCを用いて解析しながら、新たな宿主域を持ったハイブリッドrAAV9ベクターの作成を試みたいと考えます。AUCを行なえる超遠心分離装置を所属講座が平成29年1月に導入し、これに伴って、本申請の研究費より測定に必要な消耗備品類を購入致しました。これまでに報告したrAAV1 および9 ベクターの最終精製品もAUCにて解析し、その精製方法の客観的な評価を行なったうえで、不純物の少ないウイルス作成法の更なる検討を行うことも考慮しております。
科研費の交付内定を頂いたのが平成28年10月21日でしたので、申請当初の実験計画の基幹技術となるrAAV9 ベクターの精製法の確立と、その信頼性の検討を行なっていました。このため、備品の購入計画を変更し、作成したウイルスの質的均一性を検討するための備品を 購入いたしました。
生じました次年度使用額は、翌年度に行うウイルスの質的均一性を検討するための実験の消耗備品等の購入に当てたいと考えております。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
Molecular Vision
巻: 22 ページ: 816-826
Molecular Therapy-Methods & Clinical Development
巻: 3 ページ: 15059
doi:10.1038/mtm.2015.58
巻: 3 ページ: 15058