研究課題
本申請は安全で、感染効率の高いAAVベクター(rAAV)を無血清細胞培養液を用いた異種成分不含(Xenogeneic Free)培養システムを用いて、適正製造規範に適合させるために超遠心分離を行うことなく、簡易精製の可能なrAAVの作成系の確立を目指します。簡易精製方法の基盤技術として、超遠心分離操作を含まない rAAV1および 9 に加えて、rAAV8の精製法も確立し、発表しました。 rAAV1、rAAV9 および rAAV8 のパッケージングプラスミドに他の血清亜型のパッケージングプラスミドの混合比率を変えながら添加することにより、新たな宿主域を持ったハイブリッド rAAV1、rAAV9 および rAAV8 の作成を試みることが可能となりました。2種類の大量培養装置を用いて、ヒト胎児腎細胞由来の HEK293EB細胞より、rAAV1の作成を試みました。0.53㎡の固定庄に細胞接着させる循環型バイオリアクターに 5 x 10E+8 cellsを播種し、8 x 10E+13 vg の rAAV1 が得られましたが、Wave型の培養装置ではマイクロキャリアに充分量の細胞の接着は出来ませんでした。平成29年1月に rAAV の質的均一性を検討するため、分析用超遠心機 analytical ultracentrifugation (AUC)を導入し、本申請の経費よりに必要な消耗備品類を購入致しました。電顕で中空粒子の混入が少ないと思われていたこれまでの精製 rAAV1 および 9 ベクターを解析したところ、完全長のウイルスゲノムを含むもの他に、ベクターゲノムを欠く空の粒子、断片化されたまたは不完全なベクターゲノムを含む多数の異なるウイルス種を含む集合体であること確認しました。これらの結果を踏まえて、不純物の少ないウイルス作成法の更なる検討を行う必要あると考えます。
4: 遅れている
Brenda Burnham らは analytical ultracentrifugation (AUC)を用いて、従来の作成方法で調製された rAAV 標品には、完全長のウイルスゲノムを含む発現が可能なウイルス粒子があまり存在せず、ウイルスゲノムを含まない中空粒子や断片化された不完全なベクターゲノムを含む発現が不可能であると思われる粒子等、多数の異なるウイルス粒子を含む集合体であること報告しています(Human Gene Therapy Methods, 26 ( 6) 228-242, 2015.)。電子顕微鏡のネガティブ染色像で中空粒子の混入が少ないと思われていた我々の精製 rAAV1 および rAAV9 ベクターを解析したところ、完全長のウイルスゲノムを含む粒子の存在比率は既報のもの比べ高値でした。しかし、ベクターゲノムを欠く中空粒子、断片化された、または不完全なベクターゲノムを含む粒子の存在も確認しました。これらの存在は rAAV 標品の遺伝子導入効率を低下させる原因と考えられているため、ウイルスゲノムとして egfp、luciferase 等、および ウイルスゲノム構造が single strand または double strand であるもの等をそれぞれ作成し、それらの完全長のウイルスゲノムを含む粒子の存在比率等を比較検討しました。電子顕微鏡像による中空粒子の存在比率と、AUC による完全長のウイルスゲノムを含む粒子の存在比率には明らかに矛盾が生じておりました。 この矛盾の原因を究明することが、高い感染能力を持つ rAAV の作成方法を確立するための不可欠な情報として、最も重要であると考え、この実験を優先致しました。
未だ精製方法が確立されていない(細胞受容体が未だに不明な)第二世代(7型、10型)の rAAV パッケージングプラスミドを 1 型、 9 型 もしく 8 型パッケージングプラスミドに種々の比率で混合添加することにより、新たな宿主域を持ったハイブリッド rAAV1、rAAV9 もしくは rAAV8 型ベクターの作成を試みる予定です。キャプシド・プラスミドを種々の比率で混合する事で、表面荷電をあまり変更せずに、陰イオン交換樹脂に結合出来る形態の混合キャプシドを持つハイブリッド AAV ベクターを作成・精製することを目標とします。作成方法の改良点として、ベクタープラスミド、パッケージングプラスミドの塩基配列の変更によって、遺伝子導入効率を低下させる原因と考えられている断片化された、または不完全なベクターゲノムを含む粒子の存在を低下させうるかを検討いたします。完全長のウイルスゲノムを含む粒子と、ベクターゲノムを欠く中空粒子との分離は、最終段階において、Maetin Lock ら (Human Gene Therapy Methods; Part B 23 56-64, 2012)、Guang Qu ら (J Viol Methods 140 183-192 2007) の方法を参考に、イオン交換樹脂を用いて行うことが可能かを検討致します。それらの精製標品の物理的な評価を電子顕微鏡を用いたネガティブ染色像にて算出した中空粒子の存在比率と、AUC による完全長のウイルスゲノムを含む粒子の存在比率を算出し、矛盾が生じるかを検討する予定です。
適正製造規範に適合する簡易精製が可能な次世代 AAV ベクターの開発するためには、遺伝子導入効率を低下させる原因と考えられている断片化された、または不完全なベクターゲノムを含むウイルス粒子の生成量を低下させうる作成方法の確立が必要となります。この為にはこれまで作成してきた rAAV の質的均一性の検討を、新規に購入された分析用超遠心機 analytical ultracentrifugation (AUC)を用いて行い、その結果を踏まえて、更なるウイルス作成方法の改良を行おうと試みました。AUC 分析を行うに際して、16種類からなる部品を用いての測定用のセルの組み立て、測定方法(沈降速度法、沈降平衡法)、検出方法(吸光度法、干渉法)、回転速度等の選択や、解析プログラムSEDFITにおける解析条件の決定等の検討事項が多々存在し、これらを設定するために多大の時間を費やしました。この為、当初予定していました実験に必要な経費が未使用となりましたが、平成30年度にこれらの実験も併せて行う予定であります。
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