研究課題/領域番号 |
16K08645
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高木 清司 東北大学, 医学系研究科, 講師 (80595562)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アンドロゲン / マクロファージ / 乳癌 / 浸潤能 |
研究実績の概要 |
乳癌組織中アンドロゲン濃度をLC-MS/MS法により測定し、CD163陽性細胞の浸潤との関連を解析したところ、両者に有意な相関は見られなかった。アンドロゲンがTHP-1細胞におけるCD163の発現を増強させないという昨年度の結果とあわせ、アンドロゲンはマクロファージの分化誘導には直接関与しないことが示唆された。 THP-1細胞をM2マクロファージに分化させ、さらに合成アンドロゲンR1881を暴露した後に培養上清を回収し、乳癌培養細胞MDA-MB-231に添加して浸潤能を評価したところ、R1881に暴露したマクロファージの培養上清によりMDA-MB-231の浸潤能が有意に亢進することを見出した。この結果は、M2マクロファージの浸潤が多い症例は悪性度が高く、アンドロゲン合成酵素(5aRed1)陽性症例において特に顕著という昨年度の報告を支持する。すなわち、マクロファージによる乳癌の促進作用においてアンドロゲンが重要な役割を果たすことが強く示唆される。 一方で、マクロファージ培養上清はMDA-MB-231の増殖能には影響を与えず、抗癌剤(パクリタキセル、5-フルオロウラシル、エピルビシン)の感受性にも変化を与えなかった。これらの実験はMDA-MB-231細胞で行ったのみであり、引き続きその他の細胞株(MCF-7、SK-BR-3、T-47D等)でも検証を続けたい。 アンドロゲンがマクロファージの乳癌促進作用を増強する機序として上皮間葉転換(EMT)の可能性を検討したが、R1881暴露マクロファージの培養上清は乳癌細胞の上皮系マーカー((E-cadherin)や間葉系マーカー(vimentin)の発現には影響を与えず、マクロファージによる乳癌細胞のEMTの誘導にアンドロゲンが関わるわけではないことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度は乳癌培養細胞を用いた機能解析に主眼をおき、マクロファージによる乳癌の進展促進作用にアンドロゲンが重要であるという仮説を、部分的にではあるが実証できた。細胞増殖試験等、さらに追加検討を行いたい項目も多少残しているため、30年度も継続して行っていく予定である。 組織中アンドロゲン濃度とCD163陽性細胞浸潤との関連を解析したことにより、アンドロゲンがマクロファージの分化自体には関与しないことを実際の乳癌組織を用いて確かめることができ、乳癌組織を用いた解析には目処がついた。平成30年度はマクロファージにおいてアンドロゲンによって誘導される液性因子の同定を予定しているが、抗体アレイのキットの選定は遅滞なく進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
マクロファージの培養上清を用いた細胞増殖試験を継続していく。また、アンドロゲンがマクロファージの乳癌促進作用を増強する機序の一端を明らかにするため、抗体アレイを用いたアンドロゲン誘導性液性因子の探索を進めていきたい。候補因子が得られたならば、リコンビナント蛋白を準備して乳癌細胞に暴露して浸潤能に与える影響等を評価していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
定量PCR関連の試薬に用いるプライマーを当初の予定より安価に購入できたため、2056円の余剰が生じた。具体的には、プライマーの精製グレードを下げても実験に支障がないことが分かったため、精製にかかる費用を抑えることができたためである。 細胞増殖試験を30年度も引き続き行うため、その費用に充当する。
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