子宮頚部胃型腺癌およびその前駆病変に関してゲノム病理学的検討を進めた。その過程で、腫瘍内不均一性、および血中遊離核酸との関係を評価する方針とした。具体的にはがん症例の病理解剖時に屍体血を採取し、血中遊離DNAを対象として全エクソン解析を行った。また、8か所の転移巣に関しても全エクソン解析を行った。8か所の転移巣に共通で見られたfounder mutationの大部分が血中遊離核酸中に検出された。なお、各転移巣から血中への変異DNAの出方にはばらつきが認められた。血中遊離核酸のみで検出された変異に関しては、ホルマリン固定された多数の転移巣に立ち返ってその由来を検討することとした。その結果、ごく一部の転移巣にのみ存在する変異であっても血中に遊離しうることが証明できた。すなわち、屍体血解析の結果をふまえて、全身のがん巣をシーケンスすることによって、がんの多様なクローンをマッピングできるのである。以上の成果をふまえ、我々は新しい病理解剖研究の在り方として屍体血を活用した解析系を提唱するに至っている。 日本及び先進国では病理解剖件数、剖検率ともに著明な減少傾向を示している。医学研究の推進において、病理解剖は非常に重要である。特にがん症例においては、多数の転移巣を解析できる唯一といってよい機会が病理解剖であり、我々の提唱した病理解剖学研究が広まることによって、新たながん研究のアプローチが確立されると期待される。
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