研究課題
ヒストン修飾変化と癌との関連性が注目されており、EZH2やSETDB1のようなSETドメインと呼ばれる保存された領域を持つ遺伝子の発現異常が多くの癌で検出されている。我々は胃癌組織を用いてSET関連遺伝子SETDB2の免疫組織染色を行い、SETDB2が胃癌の約30%で高発現していることを明らかにした。臨床病理学的諸性状との関係ではSETDB2の発現異常頻度は進行胃癌で高く、患者予後が有意に悪かった。機能的解析の結果、SETDB2を強制発現すると、胃癌細胞の増殖および浸潤能が亢進した。更にSETDB2はヒストンH3K9のトリメチル化活性機能を持つことが示唆された。SETDB2は癌抑制遺伝子WWOXとCADM1のプロモーター領域にリクルートされると、その部分のヒストンH3K9トリメチル化を介してこれら遺伝子の発現を抑制していることを明らかにした。またエピジェネティック阻害薬(X)を処理するとSETDB2発現が低下した。これらの研究は一過性発現実験系であるため、更にレンチウイルスを用いたSETDB2を安定的に発現する胃癌細胞株とゲノム編集法を用いたSETDB2ノックアウト細胞株の樹立を行った。また、肝癌や膵癌においてもSETDB2タンパク質の免疫組織染色を進めており、難治性癌におけるSETDB2の役割を引き続き検討中である。さらに我々は既に胃癌でSET関連遺伝子SET7/9が癌抑制的な働きを持つことを報告しており、SET7/9のノックアウト細胞の樹立を行った。今後、これらの細胞株を用いてSETDB2とSET7/9の機能的解析を進める。新たに膵神経内分泌腫瘍におけるDAXX遺伝子とヒストンH3K9のトリメチル化の関連および、薬剤耐性肝癌細胞を用いてヒストン修飾とDNAメチル化の解析も行った。
2: おおむね順調に進展している
初年度は胃癌におけるSETDB2発現亢進に関する論文発表ができたので、平成29年度はその機能的役割を解析するため、SETDB2のFLAG付きおよびGFP付きベクターを導入した安定発現細胞株とCRISPR/Cas9によるノックアウト細胞株を樹立した。SETDB2高発現細胞株を用いて、SETDB2と結合する因子について免疫沈降法による検討を行なっている。またSETDB2を高発現させた細胞株にエピジェネティック治療薬を複数試したところ、一部の治療薬でSETDB2発現抑制と細胞増殖抑制効果が得られた。この治療薬(X)は他のヒストン修飾酵素(A)の阻害剤でもあり、免疫沈降解析の結果、SETDB2とタンパク質Aの共沈を認めるなど、分子生物学的解析は概ね順調に進んでいる。SETDB2およびSET7/9におけるマウスの実験系においてはやや遅れている。近年、ヒストンシャペロンの1つであるDAXXはSET関連酵素であるSUV39H1やSETDB1と結合することが報告された。DAXXとそれら酵素との関連の検討までには至らなかったが、本年度は膵神経内分泌腫瘍においてDAXXは標的遺伝子のH3K9トリメチル化を介してがん抑制的に働くことを明らかにした。
樹立したSETDB2およびSET7/9発現細胞株を用いて分子生物学的な機能解析やin vivo解析を進める。免疫沈降法や質量分析を用いてSETDB2と結合する因子を同定したい。またin vivoの実験系を進める。膵癌、肝癌、胆管癌および膵神経内分泌腫瘍におけるSET関連タンパク質(SETDB2やSET7/9を含む)の発現解析を継続する。
本年度の研究は概ね順調に進んでいるものの、SETDB2と結合する因子についてはまだ実験は継続中である。またマウス実験およびトランスクリプトーム解析を一部変更して、遺伝子改変した細胞株の樹立と免疫沈降法に使用したため未使用額が生じた。上記理由により、未使用額の一部はヒストン修飾の機能的解析に充てることを予定している。さらにこの研究成果を論文および学会発表するための経費としても使用したい。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) 図書 (1件)
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