研究課題
腫瘍には腫瘍幹細胞という自己複製能・多分化能を有する少数の集団があり,化学療法や放射線療法に抵抗性で再発や転移の原因となることが明らかにされつつある.この腫瘍幹細胞の制御ががん治療の重要な鍵となっている.これまで腫瘍幹細胞は自分自身を複製すると同時に非腫瘍幹細胞を産生するが,非腫瘍幹細胞からは腫瘍幹細胞は生み出されないとされてきた.しかし近年,非腫瘍幹細胞からも腫瘍幹細胞が形成されるという,いわゆる「可塑性」がみられることがわかり,この可塑性を制御することが悪性腫瘍の治療において重要な要因になると考えられる.そこで,我々は様々な腫瘍における腫瘍幹細胞の可塑性を検討し,それを制御する因子を同定することを計画した.本年度は,子宮内膜癌の腫瘍細胞株を用いて,多くの腫瘍で腫瘍幹細胞のマーカーとされているアルデヒド脱水素酵素(ALDH)をターゲットとして腫瘍幹細胞および非腫瘍幹細胞を多く含む画分を分取し,非腫瘍幹細胞から腫瘍幹細胞への変換における腫瘍幹細胞自身の関与を検討した.その結果,腫瘍幹細胞は,自己複製能が高い時には可塑性を惹起する能力が高いが,自己複製能が低く分化傾向が高い時には逆に可塑性を抑制する傾向があることがわかった.また,メッシュを用いて細胞同士の接触を調節することにより,可塑性を惹起する能力は腫瘍幹細胞と非腫瘍幹細胞の直接接触を介するが,抑制する能力は液性因子の介在を示唆する結果が得られた.
2: おおむね順調に進展している
子宮内膜癌の腫瘍細胞株を用いて,非腫瘍幹細胞から腫瘍幹細胞への変換における腫瘍幹細胞自身の関与を検討した結果,腫瘍幹細胞は自己複製能が高い時には可塑性を惹起する能力が高いが,自己複製能が低く分化傾向が高い時には逆に可塑性を抑制する傾向があることがわかった.
今後は腫瘍幹細胞の可塑性を制御する因子の同定にむけて,可塑性を惹起する状態と抑制する状態での差をマイクロアレイやRNA-seqなどを利用して分子レベルで検討していく.
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (24件) (うち国際学会 11件、 招待講演 3件)
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