研究課題
本年度は膵癌細胞株を用いてDUPS4を導入あるいは発現抑制させることでin vitroにおけるDUSP4の機能を明らかにした。[ DUSP4遺伝子導入の影響 ] ヒトDUSP4遺伝子のcDNAを独立行政法人製品評価技術基盤機構(NBRC)より入手して、レンチウイルスシステム(Invitrogen)を用いてDUSP4遺伝子発現ウイルスを作製した。これを8番染色体短腕(8p)欠失によってDUSP4の発現が低下している膵癌細胞株(PANC-1, KP4-1, MIA Paca2)に感染させたところ、MAPキナーゼの活性化レベルが著明に抑制され、細胞浸潤能や遊走能、MMP産生能、アノイキス抵抗性も抑制された。同様の結果は細胞培養液中にMAPキナーゼ阻害剤(PD325901)を添加することによっても確認された。[ DUSP4遺伝子発現抑制の影響 ] 反対に、8p欠失がなくDUSP4発現が保持されている膵癌細胞株(PK-59)においてDUSP4特異的siRNAを用いてDUSP4の発現を抑制したところ、浸潤能や遊走能、アノイキス抵抗性は有意に亢進した。また、膵管上皮不死化細胞(HPNE)を用いて同様にDUSP4の発現を抑制すると、MAPキナーゼの恒常的な活性化が認められた。以上の結果から、正常の膵管上皮ではMAPキナーゼの活性化レベルはDUSP4によって制御されているが、膵癌細胞では8pの欠失に伴いDUSP4の発現が低下しているためにMAPキナーゼが恒常的に活性化している。その結果、アノイキス抵抗性やMMP産生能、遊走能が亢進して、浸潤癌として生存・増殖するのに必要な悪性形質を獲得すると考えた。
2: おおむね順調に進展している
当初の本年度の研究項目は以下の通りであった。1.膵癌細胞株を用いてDUSP4を一過性に発現あるいは発現抑制することで、DUSP4の機能的意義を解明する。2.DUSP4を安定的に発現するあるいは発現抑制されている細胞株を樹立する。3.上記の安定細胞株と免疫不全マウスを用いて同所移植モデルを作成して、DUSP4のがん抑制遺伝子としての機能を明らかにする。このうち1については各種膵癌細胞株を用いた実験が終了して、明解な結果を得ることができた。2については安定細胞株の樹立が完了して、1で得られた結果と矛盾しない細胞形質を示すことを確認済みである。これらを用いて、3の同所移植モデル作成のための予備実験を施行した結果、適切な移植方法と細胞数、移植後の観察方法、期間等について条件設定を行うことができた。現在、本実験を施行しているところである。
本年度の研究成果より、DUSP4は膵癌における新規がん抑制遺伝子であることが明らかとなった。今後は以下の項目を遂行することによって本研究で得られた知見の臨床応用を目指す。1.DUSP4の発現低下によって変動するシグナルパスウェイの全容を把握する。膵癌ではMAPキナーゼに加えて、PI3K-AKTパスウェイの活性化も発現・進展の過程に深くかかわっていることが知られている。そこでDUSP4遺伝子を導入、あるいはノックダウンされた膵癌細胞株と、それぞれの親株細胞の網羅的発現解析を行い、発現が変動する遺伝子を抽出する。解析結果をパスウェイ解析データベース(Ingenuity Pathway Analysis, Ingenuity Systems)に連携して、DUSP4分子が担うシグナルパスウェイの概要を得る。さらに臨床検体(手術や生検で得られた膵癌組織、あるいは内視鏡的に採取された膵液中に含まれる膵癌細胞等)で発現が変動している分子を探索する。2.DUSP4の発現低下に伴うMAPキナーゼの恒常的活性化が、膵癌の浸潤に関与するのであれば、MAPキナーゼは有効な治療標的となり得る。そこで、膵癌細胞株を免疫不全マウスの膵臓に同所移植して腫瘤形成後に、阻害剤を経口投与して、腫瘤の縮小効果や遠隔臓器(肝、肺、脳など)への転移抑制効果、生存期間の延長効果などを調べる。
年度末に発注した実験試薬が年度内に納入されなかったため。
次年度の実験試薬購入費に充てる。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件)
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