研究課題
【研究の目的】Helicobacter pylori (ピロリ菌)感染による慢性炎症の持続が胃がん発症に重要な役割を果たしている。一方、タイでは胃がん発症率は本邦の1/10以下と非常に低く、その原因はピロリ菌感染による胃炎が非常に弱く、さらに胃粘膜萎縮、腸上皮化生が少ないことをタイ全土から採取した1,500 体を越える病理検体を用いた疫学研究で明らかにした。本研究では、生検組織と同時に採取し培養したピロリ菌の遺伝子解析により、”胃がんが少ない=胃炎が軽い”原因をピロリ菌病原遺伝子の面から明らかにすると共に、ピロリ菌のMulti Locus Sequence Typing (MLST)解析を始めとした分子疫学的解析手法により、タイ人の民族の成り立ちを明らかにする。【 該年度の研究成果の概要】タイ、ミャンマー国境にあるメーソットの少数民族を含めた住民から採取したピロリ菌株から抽出したDNAを用いて、Multi Locus Sequence Typing(MLST)解析を行った。メーソットは、モン族、カレン族、タイ人、タイ-中国の4民族が住んでいる地域である。その結果、ピロリ菌の感染率は54.5% (158/289)であり、モン族、タイ-中国民族、タイ族では東アジア型が優位(それぞれ96.0%、85.7%、62.7%)であったが、カレン族では欧米型が優位73.3%であった。MLST解析では、モン族とタイ-中国民族ではhspEAsia 型が優位(それぞれ92.0、85.7%)である一方でカレン族はhpAsia2が優位 (86.7%)であった。これらのデータから、タイ人のピロリ菌の遺伝子型は民族によって異なっており、病原性にも関連していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
メーソットにおけるMulti Locus Sequence Typing(MLST)解析の結果を論文としてまとめ、Gut Pathog. 2017 Octに掲載された。また、平成28年度中の研究成果を、欧州ヘリコバクター学会において「Helicobacter pylori Virulence Genes of Minor Ethnic Groups in North Thailand」のタイトルで発表した。
遺伝子情報と臨床情報が統合されたデータベースの構築によるハイリスクピロリ菌の同定性、年齢、内視鏡診断、既知の病原遺伝子の系統分類およびに新しい病原遺伝子からなるデータベースを構築する。感染に続発する疾患の発症要因を解明し、ピロリ菌のなかで感染により続発性に重篤な疾患を引き起こすハイリスクピロリ菌を同定して、それらを標的とした除菌治療の開発や胃癌発症予防法の開発につなげる。研究最終年度にあたり、これまで得られたデータを論文としてまとめる。
(理由)当初予定よりも消耗品購入が少なく、タイでの研究打ち合わせが平成30年度になったため、次年度使用額が生じた。(使用計画)本年度、消耗品費、旅費と合算して使用予定である。
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すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Gut Pathogens
巻: 9 ページ: 56-60
10.1186/s13099-017-0205-x
PLoS One.
巻: 6 ページ: 11-23
10.1371/journal.pone.0187225