研究実績の概要 |
Helicobacter pylori (ピロリ菌)感染による慢性炎症の持続が胃がん発症に重要な役割を果たしている。一方、タイでは胃がん発症率は本邦の1/10以下と非常に低く、その原因はピロリ菌感染による胃炎が非常に軽く、さらに胃粘膜萎縮、腸上皮化生が少ないことをタイ全土から採取した1,500検体を越える病理検体を用いた疫学研究で明らかにした。本研究では、生検組織と同時に採取し培養したピロリ菌の遺伝子解析により、”胃がんが少ない=胃炎が軽い”原因をピロリ菌病原遺伝子の面から明らかにすると共に、ピロリ菌のMulti Locus Sequence Typing (MLST)解析を始めとした分子疫学的解析手法により、タイ人の民族の成り立ちを明らかにすることを目的として研究をおこなった。 メーソットのピロリ菌感染率は、55%であり、メーソットに住む4つの民族(モン族、カレン族、タイ族、タイ-チャイニーズ族)間で感染率に差はなかった。ピロリ菌の毒性因子CagAの解析では、メーソットでは全体として強毒型の東アジア型CagAの割合が高く、タイ族、モン族、タイ-チャイニーズ族では東アジア型CagAの割合が高く、カレン族では欧米型CagAの割合が高かった。 さらに、ピロリ菌のMLST解析により4つの民族のうち、「モン族とタイ-チャイニーズ族の起源は中国にあり、カレン族はミャンマー由来であり、タイ民族の由来はこの研究では分からない」ことが明らかとなり、ピロリ菌解析を用いた分子疫学研究に進展が見られた。
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