研究実績の概要 |
1)乳腺神経内分泌癌(breast neuroendocrine carcinoma, B-NEC)の発生機構に関し、我々は近年、背景乳腺組織に異型のない神経内分泌細胞が isolated/scattered pattern, clustered pattern ないし circumferential pattern で広く分布する“Neuroendocrine cell hyperplasia”の概念を提唱し、前癌病変としての意義をはじめて示した(J Clin Pathol, 2012. USCAP, 2012. ECP, 2013. 日本病理学会総会, 2018 等)が、皮膚/眼瞼の endocrine mucin-producing sweat gland carcinoma(Pathol Int, 2012: 本邦で初)[神経内分泌型非浸潤性乳管癌(Histopathology, 2008. Cytopathology, 2011. USCAP, 2010 等)の counterpart] においても、その発生に同病態が関与しうることをはじめて報告した (Pathology, in press.ECP, 2018. 日本病理学会総会, 2017 & 2018 等)。 2)B-NEC は、ホルモン療法感受性を伴って予後良好とみなされてきたが、非特殊型浸潤癌と比較し、侵攻性の臨床経過を示すことを示してきた (ECP, 2014, USCAP, 2012 等)。一環として、巨大腫瘍塞栓 (Histopathology, 2014.ECP, 2018. 日本病理学会総会, 2017 等)、癌性リンパ管症 (Pathol Int, 2016.ECP, 2018. 日本病理学会総会, 2017. 日本乳癌学会学術総会, 2017 等)、扁平上皮分化 (Histopathology, 2013 & 2015.ECP, 2018. 国立病院総合医学会, 2017. 日本乳癌学会学術総会, 2018 等)、トリプルネガティブ/基底細胞分化(ECP, 2018)を示す B-NEC をはじめて報告した。 3)きわめて稀な乳腺 lymphoepithelioma-like carcinoma の細胞病理学的特徴を分析し、その診断学的意義およびピットフォール、治療効果・予後予測因子として注目されている tumor-infiltrating lymphocytes (TIL) との密接な関連性について提示した (Cytopathology. 2017.ECP, 2017)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成 29 年度の研究実績は上記概要の通りであり、研究はおおむね順調に進捗しているといえる。そのほか、主要な研究成果として以下が挙げられる。 1)新版 細胞診断学入門―臨床検査技師・細胞検査士をめざす人のために.第II部 各論「5 乳腺」(一般財団法人 名古屋大学出版会,名古屋)を分担執筆した。 2)Aberrant CD56 expression を示す B-cell lymphoma(びまん性大細胞型 B 細胞性リンパ腫)を我々は泌尿器領域ではじめて報告し (J Clin Pathol, 2016)、同発現の意義と予後との相関、診断学的意義についてディスカッションを行った (ECP, 2017)。 3)他施設の医工学科との共同研究により、位相コントラストに基づく乳腺疾患の次世代放射線画像を分析した (Physica Medica, 2017. ECP, 2017 等)。
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今後の研究の推進方策 |
本研究における今後の展望として、1. 本病態と B-NEC のクローン的関連性を mitochondrial DNA sequence,copy number variation (CNV)/loss of heterozygosity(LOH)解析から検討する、2. B-NEC の浸潤・転移に関与する遺伝子背景を分子病理学的に解明する、3. 分子標的治療、予後予測・治療効果予測に重要な遺伝子を cDNA/miRNA マイクロアレイ解析から抽出する、4. 神経内分泌腫瘍マーカーの、とくに乳頭分泌物における診断的意義を検証する、5. B-NEC の新分類を提唱することを目的として研究を遂行する。 分子病理学的分析に関し、異なる複数の解析方法でアプローチすることにより研究目的が達成できるよう研究計画の立案に配慮を行った。もし、研究が当初の予定通りに進まない場合は、他施設の乳腺病理専門医(日本大学医学部病態病理学系腫瘍病理学分野の増田 しのぶ教授、防衛医科大学校医学教育部医学科病理病態学の津田 均教授など)の指導・協力を受けるとともに、研究代表者の研修先であった Department of Medical Sciences, University of Turin, Italy の Prof. Bussolati and Prof. Sapino に研究方法や実験技術に関する助言、材料の提供を受ける方向性とする。 本研究から得られたデータないし新知見に基づき、平成 31 年度以降に向け、発展研究の計画・立案を行う。
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