研究課題/領域番号 |
16K08657
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
三上 修治 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (20338180)
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研究分担者 |
小坂 威雄 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (30445407)
水野 隆一 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60383824)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 腎細胞癌 / 分子標的治療 / スニチニブ / ソラフェニブ / 微小環境 / 免疫 / PD-1 / PD-L1 |
研究実績の概要 |
腎細胞癌の微小免疫環境と予後・分子標的薬治療効果の関連 [背景]Vascular endothelial growth factor-tyrosine kinase inhibitor (VEGF-TKI)による分子標的治療は切除不能の進行性腎細胞癌の標準治療となり、一定の治療効果をあげている。しかし、多くの症例は治療開始1年以内に治療に対して耐性となるため、治療耐性機構の解明が必須である。近年、免疫チェックポイント分子であるprogrammed death-1 (PD-1), PD-ligand 1 (PD-L1)の分子経路を阻害する免疫療法が腎細胞癌を含む多くの悪性腫瘍に導入されている。本年度の研究では、腎細胞癌における免疫チェックポイント分子の意義、VEGF-TKI治療に対する耐性の関連を解析した。 [方法・対象]本研究では治療前およびVEGF-TKI治療後の腎細胞癌組織を対象に免疫組織学的にPD-1, PD-L1発現を調べ、臨床病理学的因子・予後およびVEGF-TKI治療に対する奏功性との関連を検討した。 [結果]未治療の腎細胞癌ではPD-1, PD-L1高発現例は組織学的異型度が高く、予後不良であった。転移を合併したためVEGF-TKIを行った症例では、PD-1, PD-L1発現が亢進している症例の方が低発現症例に比べ治療に対する奏功性が低かった。また、VEGF-TKI治療後の腎細胞癌組織は未治療例に比べPD-1, PD-L1発現が亢進していた。 [結論]腎細胞癌の微小免疫環境がVEGF-TKI治療の奏功性に関与し、治療後にPD-1, PD-L1発現が亢進することが示された。そのため、VEGF-TKI治療に抵抗性となった症例にはPD-1/PD-L1阻害剤が効果的であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究では血管内皮細胞における血管制御因子vasohibin-1 (VASH1)発現が腎細胞癌の遠隔転移や再発・予後不良因子であることおよびVASH1が血管新生の真のバイオマーカーとなり得ることを解明した。また、VASH1はVEGF-TKI治療後腎細胞癌組織の血管内皮細胞に高発現しており、血管内皮細胞の分子標的治療への耐性に関与していることが示唆された(Mikami S, et al, Laboratory Investigation 2017)。 一方、本年度の研究では上記の血管制御因子に加え、最近治療応用が開始された免疫チェックポイント分子であるPD-1/PD-L1がVEGF-TKI治療に対する抵抗性に関与していることを示した(Mikami S, et al, in submission)。そのため、分子標的治療の抵抗性に関与する微小環境の解明は極めて順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
Mammalian target of rapamycin (mTOR)の分子経路は腎細胞癌症例の多くにおいて活性化されていると考えられ、mTOR阻害剤であるエベロリムスやテムシロリムスも進行性腎細胞癌の治療に導入されている。腎細胞癌の治療は進歩しているものの、治療法選択は臨床的因子のみによって行われているのが実情である。即ち、evidence-based medicineと実際の治療に矛盾が生じているのが現在の腎細胞癌の治療戦略の現状である。そのため、治療法選択の指標となる分子マーカーの同定は標準治療であるVEGF-TKI治療に対する抵抗性の予測および理想的な治療法選択の確立にとって重要である。来年度の研究では、腎細胞癌組織におけるmTOR経路分子(mTOR, p70S6 kinase, 4EBP1)発現を免疫組織学的に検討し、腎細胞癌の進行、予後およびVEGF-TKI治療に対する抵抗性との関連を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が極めて順調に進んでいるため、当初の見込みよりも少ない金額で成果発表がかのうとなり若干の未使用額が生じた。 次年度は今年度の研究で解明された内容を基盤として研究を発展させるため、各種試薬等の購入を行い、複数の論文を発表する予定である。
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