研究実績の概要 |
本研究の目的は膵癌の実際の症例を用いて、癌細胞、間質それぞれにおけるmiRNA(miR-21,93,210)やタンパク質(α-SMA、CD10、podoplanin、periostin)発現の臨床病理学的意義を検討し、腫瘍の発生や分化、進展との関連を明らかにすることである。 浸潤性膵管癌107例のパラフィンブロックよりtissue microarray(TMA)を構築した。In situ hybridization(ISH)法によりmiR-21を検出し、癌細胞、間質それぞれのmiR-21発現の臨床病理学的意義について検討した。さらに、癌間質で発現が報告されているタンパク質(α-SMA、CD10、podoplanin、periostin)の発現意義についても検討した。 間質でのmiR-21高発現群は低発現群に比べ、腫瘍径が大きかったが(p<0.05)、腫瘍細胞でのmiR-21発現と臨床病理学的因子との関連は認められなかった。間質でのpodplanin及びperiostin高発現群はリンパ節転移との関連がみられ、また、periostinは脈管侵襲との有意な関連もみられた。間質CD10陽性群は有意に全生存期間が短いという解析結果であった。 今年度の検討により、腫瘍間質で発現するmiR-21、CD10、podplanin、periostinは,それぞれ腫瘍の進展に関連する臨床病理学的因子や患者の予後との関連が認められ、癌進展との関連が示唆された。また、miR-21は癌細胞より間質でのmiR-21が腫瘍の進展においてより重要な機能を持っていると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度からの病理組織学的研究を継続する。膵癌株細胞(MIAPaca2、Panc-1、KP4)と膵星細胞(HPaRteC)を用いてmiR-21,93,210の機能解析を行い、細胞増殖や浸潤への影響について検討する。
1.間質におけるmiRNA発現と発癌の関連についての検討:TMAを構築した症例のうち、腫瘍内の中心部と辺縁部で特に発現状態の違いが顕著に現れた症例を中心に前癌病変と浸潤癌が含まれる切除検体を10例程度選ぶ。膵癌組織の切り出し図と病理組織像を基に腫瘍最大割面から切除断端、組織先端まで長軸方向に1-2㎝間隔で腫瘍の中心部と辺縁部のブロックを選ぶ。miRNA(miR-21,93,210)に対するISH法および活性型膵星細胞で発現が報告されているタンパク質の免疫組織化学的染色を行い、病変とそれぞれの分子との関連性について検討する。 2.細胞増殖、遊走能、浸潤能におけるmiR-21,93,210の機能についての検討:膵癌株細胞(MIAPaca2、Panc-1、KP4))に対し、Anti-miR-21,93,210、mimic-miR-21,93,210およびcontrol-miRのsiRNA導入を行い、それぞれの細胞の増殖能、遊走能、浸潤能について解析する。 3.膵星細胞におけるmiR-21,93,210発現の膵癌細胞増殖への影響についての検討:遺伝子導入後の膵星細胞(HPaRteC)のconditioned mediumを膵癌株細胞へ作用させた後、2.と同様に細胞増殖能、遊走能、浸潤能について解析する。
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