研究課題
高齢者ではマイクロサテライト不安定性を示す胃癌が増加し、85歳以上の超高齢者では約1/3の胃癌がマイクロサテライト不安定性を示すことを明らかにした。また、胃癌ではKRAS遺伝子変異(3.5%)、BRAF遺伝子変異(0.43%)が低率であることも明らかにした。本年度の研究では、415例(男性222例、女性193例、年齢中央値78歳、分布51~96歳)の胃癌患者の460病変を用いて、KRAS・BRAF遺伝子変異とマイクロサテライト不安定性との関連について詳細に検討し、他の臨床病理学的事項と統計学的に解析した。その結果、KRAS遺伝子変異を示す16例中G12D型が8例、G12V型が1例、G13D型が10例であった。2例ではコドン12、13の両者に変異がみられた。BRAF遺伝子変異のみられた2例はともに、KRAS遺伝子変異もみられた。マイクロサテライト不安定性は81例(17%)に認められ、KRAS遺伝子変異と有意な関連を認めた(p<0.001)。胃癌ではKRAS・BRAF遺伝子ともに変異率が低いので、共同研究により1000例を超える症例を集積し、さらに検討する予定である。これらの結果から、大腸癌と異なりBRAF遺伝子変異はマイクロサテライト不安定性を示す胃癌の発生への関与は低いものと結論づけられる。近年、消化管癌においてもマイクロサテライト不安定性を示す癌が免疫チェックポイント阻害剤の適応になる可能性が示唆されているが、大腸癌と発生機序の異なる胃癌においては、適応になるか否かを慎重に検討する必要がある。また、本年度はCA19-9産生胃癌の臨床病理像について検討を始めた。CA19-9産生胃癌が脳血栓塞栓、非細菌性血栓性心内膜炎を併発した剖検例を詳細に検討し、症例報告として論文発表したが、現在剖検例を用いてCA19-9産生胃癌と合併症との関連について検討している。
3: やや遅れている
高齢者胃癌の遺伝子変異については解析の精度に問題があり、やや遅れているのが実状である。しかし、CA19-9産生胃癌についての研究は症例報告することができ、313剖検例の基礎データ収集を終了し、免疫組織学的に検討を進める準備を整えることができた。
胃癌では、KRAS遺伝子及びBRAF遺伝子の変異率が低いので、国内外の共同研究者に呼びかけ、約1200例の胃癌の症例を集積して、さらに検討を加える。今後免疫チェックポイント阻害剤の適応の可能性も想定されるので、マイクロサテライト不安定性とKRAS遺伝子変異の関連についても検討する。マイクロサテライト不安定性を高率に示す充実型低分化腺癌については、約100症例を収集し、臨床病理学的にさらに検討する。CA19-9産生胃癌については、血清CA19-9値、免疫組織学的反応、組織型、合併症も含む臨床病理像を明らかにする予定である。
平成29年度は前年度得られたデータをまとめるとともに、次年度の準備に時間をあてたので、支出が予定より少なめであった。平成30年度においては、大きな2つのプロジェクトを実施し、データをまとめ論文発表までを予定している。また、国際学会での発表も予定している。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 3件)
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