前年度までに成人T細胞白血病細胞株ATN-1と、GFP組み換えVSGでpseudotyingしたHTLV-Iを感染させたT細胞から抽出した蛋白質をリン酸化アフィニティーカラムで精製し、iTRAQにより成人T細胞白血病細胞株で発現亢進が見られた蛋白質を3種類同定した。これらはいずれもERKファミリーであった。今年度はそれぞれの蛋白質をコードする遺伝子について、臨床検体における遺伝子変異の有無を次世代シークエンスによって検討したが、これらの遺伝子には既報と同様のRHOAの変異以外、新規遺伝子変異は検出されなかった。次世代シークエンスではSTAT3の変異が高頻度に認められたことから、STAT3を対象にCHIP-seqを行ったところ、発現亢進が見られた蛋白をコードする遺伝子はいずれもATN-1ではSTAT3 bindingが認められた。つぎにSTAT3変異体とSTAT3 wild typeにおける検討を行い、これらの遺伝子はSTAT3変異体においてのみプロモーター領域への結合が認められた。現在GFP組み換えVSGでpseudotyingしたHTLV-Iを感染させたT細胞に発現亢進がみられた遺伝子の導入を施行中で、現在までのところ過剰発現による増殖への影響は明らかではない。不死化への影響について現在検討中である。ATN-1細胞株へのsiRNAによるノックダウンで細胞死が誘導されることから、腫瘍の生存、維持に重要な役割を果たしていると考えられる。またこのことから、これらの蛋白が関わるシグナルが治療のターゲットとなりうることが示唆される。
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