研究実績の概要 |
炎症性筋線維芽細胞腫瘍(inflammatory myofibroblastic tumor; IMT)の約50%はALK融合遺伝子を有していることが知られていた。ROS1はALKと構造的に類似した受容体チロシンキナーゼで、肺癌の5%未満にROS1融合遺伝子が存在することが知られており、それらのキナーゼ阻害薬が治療に用いられている。これまでの我々や海外の研究でIMTの約5-10%がROS1融合遺伝子を有することが判明していた。 受容体型チロシンキナーゼTrkファミリーのTrkA,B,CはそれぞれNTRK1,2,3遺伝子にコードされており、様々な腫瘍においてNTRK1,2または3の融合遺伝子の存在が報告されている。特にNTRK3に関しては、甲状腺乳頭癌、唾液腺や乳腺の分泌癌、乳児線維肉腫などで融合遺伝子を形成しており、その多くがETV6-NTRK3融合遺伝子である。最近NTRK融合遺伝子を有する腫瘍に対して、TrkA,B,Cに対するチロシンキナーゼ阻害薬の有用性が示され、治療戦略として期待されている。 病理診断に関しては、TrkA,B,Cに対するpan-TRK抗体が開発されており、本研究ではIMTにおける診断的価値を明らかにするため、40例のIMTに対し、rabbit monoclonal pan-TRK抗体を用いて 免疫組織化学染色を行った。その結果、IMTのgenotypeはALK (n=29), ROS1 (n=2), NTRK3 (n=2), RET (n=0)といずれにも属さない“quadruple-negative” (n=7)に分類された。ETV6-NTRK3陽性IMT2例において、紡錘形 腫瘍細胞の大半がpan-TRKの核+細胞質染色パターンを示した。ALKまたはROS1陽性IMT ではpan-TRKの核発現は認められなかったが、約1/3の症例では部分的に弱い細胞質染色を示した。ETV6-NTRK3陽性の乳児線維肉腫 (n=3)と唾液腺分泌癌 (n=23)はpan-TRKの核+細胞質染色を示した。以上より、pan-TRKの核+細胞質染色パターンはETV6-NTRK3陽性IMTの同定に有用であり、NTRKに対する分子標的治療の対象となりうる患者の選択に役立つ可能性が示唆された。
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