研究課題
心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントの多くは、動脈硬化巣(プラーク)の破綻に伴う血栓形成によって発症する。その予防として抗血小板薬が第一選択薬とされているが、出血性合併症のリスクのため、より安全な予防薬の開発が期待されている。血液凝固反応は組織因子より開始される外因系凝固経路と内因系凝固経路により活性化され最終的にフィブリンが形成される。内因系凝固経路はガラス面などの陰性荷電物質と血液凝固XII因子(FXII)の接触により活性化されるが、血栓形成において生理的なFXII活性化因子は明確になっておらず、生体内で血栓形成への関与は少ないものと考えられている。一方、血液凝固XI因子(FXI)はFXII、トロンビン、FXI自身により活性化され増幅系を構成している。本研究では、動脈硬化性プラークにおける内因系凝固因子、外因系因子の活性化とその機能を検討し、動脈硬化性血栓の形成機序の解明を目的とした。破裂プラークには内因系因子の活性化因子であるコラーゲンやneutrophil extracellular trapsが少なく、外因系因子の組織因子が過剰に発現していた。その組織因子発現や凝固活性にトリプトファンのキヌレニン代謝酵素が作用していることを明らかにした。組織因子阻害物はプラークびらんの動物モデルの血栓形成早期過程を抑制したが、血液凝固FXI因子阻害物は血栓形成に影響を与えなかった。以上のことより、動脈硬化性血栓の形成初期における、内因性凝固因子の関与は限定的と考えられた。今後、血栓の成長過程におけるFXIの作用を検討する必要がある。本研究の発展により、急性心筋梗塞の発症における内因系および外因系凝固経路の関与の解明と、出血性合併症の少ない血栓症予防薬の開発に繋がることが期待される。
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