研究課題
本研究は、動脈硬化性の血管閉塞の主因となるプラーク不安定化が、プラーク内の平滑筋の未熟性と関連するかを探索する目的で行われてきている。平成28年度までにおいては、①ヒト頚動脈プラークを外科的に切除した検体において、また②ヒト未熟奇形腫内の血管において、それぞれ免疫組織化学的に平滑筋分化を検討してきた。まず①では、頚動脈プラーク内で、α-SMA陽性となる内膜平滑筋が、h-Caldesmonの発現低下によって示される未熟性を有する症例は、h-Caldesmonの発現が保たれている成熟した内膜平滑筋を有する症例と比べて、切除後5年以内に心筋梗塞等の全身の動脈硬化性疾患の発症率が高くなることを、後ろ向きコホート研究により示した。これにより、頚動脈内膜剥離術検体のh-Caldesmon/α-SMA比が、プラーク安定性の指標を示し、この指標は全身のプラーク安定性の指標ともなることが示唆された。また、この研究において、プラーク近傍とプラークから離れた内膜平滑筋の成熟度がほぼ不変であったことから、内膜平滑筋の成熟度は、プラーク内からの白血球等による働きかけに規定されるものではなく、むしろ内膜平滑筋の成熟度がプラーク安定性を規定すると示唆された。次に②では、そもそもh-Caldesmon/α-SMA比が平滑筋の成熟度の指標となると言ってよいかについて、ヒト卵巣奇形腫組織を用いて検討した。奇形腫の成熟度は神経管を主体とする未熟組織の量で診断され、成熟(Grade 0)と未熟のGrade 1~3の4段階に分類される。Gradeが進行するに従って未熟な腫瘍と判定されるが、これら腫瘍内の血管におけるh-Caldesmon/α-SMA比は、Gradeが進行するに従って低下することを明らかにした。上記の研究成果の一部は、第105回日本病理学会総会(平成28年5月仙台)などで発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初より、動脈硬化におけるプラーク不安定化に、プラーク内平滑筋(内膜平滑筋)の未熟性が関わることは、冠動脈で提唱してきた。すなわち、剖検例で心筋梗塞症例とそうでない症例の冠動脈を比較して、心筋梗塞症例の冠動脈では、そうでない症例に比して内膜平滑筋が未熟であった。この平滑筋の未熟性は、α-SMA陽性で示される全ての平滑筋を分母として、h-Caldesmon陽性で示される成熟した平滑筋を分子とした比率の低下で判定してきた。が、この判定手法の妥当性、そして剖検例の冠動脈のみでの計測という研究対象の限定性が、本研究(プラーク不安定性を平滑筋で評価する手法)の弱点と考えた。今回、頚動脈での研究にて、h-Caldesmon/α-SMA比の低下で示される平滑筋の成熟度の低下が、手術時点の脳梗塞の有無とは相関しなかったものの、その後の全身動脈硬化性疾患の有無と相関したこと、また、この成熟度はプラークの遠近とは相関しなかったために、因果関係として平滑筋がプラーク安定性を規定すると考えられたことは、注目に値する。おそらくは、血管平滑筋の成熟度を低下させる因子(遺伝的体質ないしは食生活やストレスなどの後天的因子)がまずあり、それによりプラークが不安定化し、プラーク増大に伴う動脈閉塞が発症すると示唆される。そして、奇形腫の未熟度と、奇形腫内血管壁のh-Caldesmon/α-SMA比の低下で示される平滑筋の未熟度とが相関したことからは、血管平滑筋の成熟度をh-Caldesmon/α-SMA比で測定する手法が妥当であったと示唆される。
頚動脈の研究で、平滑筋の未熟性がプラーク不安定性をもたらすと示唆されたが、この因果関係をより明確に実証するために、動物モデルでの研究を行っていく。具体的には、動脈硬化モデル動物で実験的に動脈硬化を発生させ、屠殺後にその動脈を採取し、h-Caldesmonおよびα-SMAの免疫組織化学検討を行う。これまでのヒト冠動脈および頚動脈で示してきたような、h-Caldesmon/α-SMA比の低下が認められるかどうかを調査していく。また、これらh-Caldesmon/α-SMA比の低下は、アポE欠損マウスのような先天的な異常でより生じるのか、高脂肪食のような後天的な異常でより生じるのか、ないしはガラス玉覆い隠し行動のようなストレスで生じるのかを、実験条件を変えることで検討していく。
当該年度に予定した研究が間に合わず、次年度に繰り越したため。
実験動物の購入に使用する予定。
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