研究実績の概要 |
51例の悪性胸膜中皮腫 [MPM:男性42例、女性9例、年齢平均63.8歳(33-81歳)、上皮型44例、二相型7例]、25例の反応性中皮過形成[RMH:すべて男性、平均年齢34.4歳(18-78)]を用いて、9p21領域遺伝子産物の免疫組織化学(IHC)解析を行った。 ROC解析によってカットオフ値を求めると、p14, p15, p16, MTAP, BAP1ではそれぞれ14.8%, 3.8%, 8.5%, 32.2%, 19.4%であった。陽性細胞の割合がカットオフ値以下のものを発現欠失と判定した。p16 FISHのカットオフ値は11%で、それ以上のホモ欠失を示した症例をホモ欠失陽性と判定した。 MPMで発現欠失と判定されたのは、p14, p15, p16, MTAP, BAP1でそれぞれ28例(54.9%), 10例(19.6%), 21例(41.2%), 23例(45.1%), 31例(60.8%)であった。p16 FISHにてホモ欠失陽性は31例(60.8%)である。 FISHで確認されたp16遺伝子のホモ欠失状態と、9p21領域遺伝子産物のIHCの中で最もよい相関を示したのはMTAP IHCで(kappa係数 0.69)、p16のホモ欠失の予見において、MTAP欠失は特異度100%であった。 MPM vs. RMHの鑑別診断において、9p21領域遺伝子産物IHCの有用性を検討したところ、MTAP IHCのみが特異度100%であったが、感度は45.1%と低かった。しかし、BAP1と組み合わせると、その感度は76.5%と上昇し、BAP1 IHCとp16 FISHの組み合わせによる感度84.3%にはおよばないが、BAP1 IHCのみでの感度、p16 FISHのみによる感度(いずれも60.8%)よりは有意に高かった(P=0.0386, 0.0229)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
28年度の計画とした(1)免疫組織化学(IHC)およびp16 FISHにおけるカットオフ値の設定、(2)FISHで確認されたp16遺伝子のホモ欠失状態と最もよい相関を示す9p21領域遺伝子産物(p14, p15, p16, MTAP)IHCの選定、(3)9p21領域遺伝子産物IHCとBAP1 IHCあるいはp16 FISHとの組み合わせによる中皮腫鑑別診断(MPM vs. RMH)における感度・特異度の算出、というすべての項目で結果を得ることができ、その結果をLung Cancer誌に掲載することができた(2017年1月)。
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今後の研究の推進方策 |
細胞診標本における検討に移行する。MTAP, BAP1免疫染色およびp16 FISHの組み合わせにしぼって検討を行う。中皮腫症例20例、非中皮腫症例で反応性中皮を含むもの20例で検討を行う。 1)スメア細胞診標本は限られおり、また転写によっても古い症例では免染の施行が困難な場合もあるので、まずセルブロック標本にて行う。組織でよい結果の得られた抗体および免染プロトコールをそのままセルブロックに適応できるかを検討する。 2)得られた免染プロトコールで、中皮腫および非中皮腫症例で、MTAP, BAP1免染、p16 FISHを施行し、組織で設定された欠失のカットオフ値の妥当性を検討する。 3)中皮腫症例、反応性中皮症例の結果から、中皮腫vs反応性中皮の鑑別における、MTAP, BAP1免染、p16 FISH単独および組み合わせによる感度・特異度を算出、解析し、日常診療に応用可能か否か検討し、可能な場合にはその応用アルゴリズムを策定する。
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