研究課題
初年度の研究にて、9p21領域遺伝子産物(p14, p15, p16, MTAP)の中で、9p21 FISHで捉えられるホモ欠失と最もよく相関するのはMTAP (methylthioadenosine phosphorylase)遺伝子産物であったので、悪性胸膜中皮腫 vs 反応性中皮過形成との鑑別におけるMTAP免疫組織化学(免染)の有用性について検討した。MTAPとBAP1の免染の組み合わせによっても、BAP1免染と9p21 FISHの組み合わせにはおよばないが、上記鑑別診断における感度は80%を超え、特異度も100%であることから、日常診断に有用であることがわかった。特に、肉腫型中皮腫においては、MTAP免染単独でも感度は80%と高く、BAP1免染との組み合わせによって90%まで上昇する。線維形成性中皮腫と線維性胸膜炎の鑑別に応用可能であり、重要度は高い。また、MTAPとBAP1の免染の組み合わせの細胞診(セルブロック)への応用も行い、同様に90%に近い感度を得ることができた(特異度は100%)。さらに免染の正確な判定に必要な問題点の把握と対策にも取り組んできた。結果は、USCAP, IMIG, 日本肺癌学会にて発表し、Lung Cancer誌およびCancer Cytopathology誌への発表も行った。
1: 当初の計画以上に進展している
当初、9p21領域遺伝子産物とBAP1の免疫染色およびp16 FISHの施行と統計学的解析が、初年度に終了している場合にはその結果に従い、未完了の場合にはその継続をまず行って、解析結果を得る、と予定していたが、順調で、すでに得られた結果に従って、組織において上皮型および肉腫型中皮腫のそれぞれにおける良性反応性中皮過形成(あるいは線維性胸膜炎)との鑑別における感度・特異度も得られ、日常診療に極めて有用であることを示すことができた。9p21 FISHの代用の可能性があるということで海外の研究者からも注目されたが、今年のUSCAP, IMIGではすでに追試による結果も提示されて、極めてよく再現されることが確認された。中皮腫研究者のupdateにもすでに鑑別診断とツールとして、MTAP免染が記載されるようになった。我々はさらに細胞診への応用にも取り組んで、成果を出しつつある。また、その応用における問題点と解決に関しても重要な提言ができるように取り組んでいる。
当初の予定は、「選定された組み合わせでの中皮腫vs反応性中皮の鑑別が、細胞診標本においても可能で、p16 FISH単独よりも優れている場合には、その普及化に関して、研究協力者の施設での再現研究に取り組む。」というものであった。実際には、MTAP免染にはp16 FISHの代用としての意義が見出され、BAP1+MTAPの免染同士の組み合わせでも、BAP1+p16 FISHの組み合わせに近い感度を出せることがわかった。さらに細胞診(セルブロック)への応用も可能である。従って、研究協力者の施設におけるMTAP免染の普及に努めたい。しかし、この免染の解釈にあたっては、(1)中皮腫細胞が弧在散在性に存在する場合には、腫瘍細胞の同定が困難で、従ってMTAP発現の有無の判定も困難となる、(2)核のみ、細胞質のみにおけるMTAP発現の欠失が認められる場合があり、その際にはどのようにするべきか、判断の困難な場合がある、(3)内在性陽性コントロール細胞がうまく染まらないあるいはまだらに染まるという問題も一部の症例では認められる、という問題点に気づいており、現在その解決策について検討中である。日常診療において大変重要な点であるので、この検討結果も含めて、MTAP免染の普及にあたりたい。
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