研究実績の概要 |
初年度の研究にて、9p21領域遺伝子産物(p14, p15, p16, MTAP)の中で、9p21 FISHで捉えられるホモ欠失と最もよく相関するのはMTAP (methylthioadenosine phosphorylase)遺伝子産物であったので、(1)生検および手術検体における上皮型中皮腫vs反応性中皮過形成の鑑別、(2)生検および手術検体における肉腫型中皮腫vs線維性胸膜炎の鑑別、(3)細胞診検体(セルブロック)における上皮型中皮腫vs反応性中皮細胞の鑑別において、MTAP免疫組織化学の有用性について検討したところ、すべてにおいてBAP1免染との組み合わせによって日常診療に有効なレベルまでの感度と特異度100%を確認することができた。また、セルブロックにおいては、MTAPは核と細胞質に発現を認めるが、p16 FISHによるホモ欠失と相関するのは、細胞質発現の消失(MTAP loss)であった。また、スメア細胞診におけるBAP1免染においても、内在性コントロールの染色の不均一性などいくつかの重要なpitfallがあることを確認した。また、中皮腫におけるepigeneticな変化の一つであるEZH2の高発現(>50%)も、MTAP, BAP1免疫組織化学との併用によって、中皮腫の診断に有用であることを示した。以上のことがらは学会(日本病理学会、日本臨床細胞学会、日本肺癌学会、USCAP)および学術誌 (Histopathologyなど)で発表した。 また、p16 FISH技術の普及にあたっては、島根大学病理学教室の丸山理留敬教授と連携し、同教室にp16のホモ欠失(+)あるいは(ー)の中皮腫組織を送って、FISHを施行してもらった。その初回の結果に基づいて改善点のsuggestionを送り、2回目には美しいFISH写真を得ることができた。
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