研究実績の概要 |
肺がんのうち約半数が肺腺がんである。日本人の肺腺がんでは約70%に相互排他的なドライバー遺伝子異常がみられるが、その中で最も頻度が高いものがEGFR変異である。一方、マイクロRNAはメッセンジャーRNAとの相互作用を介して発がん・がん進展において重要な働きをすることが知られている。これまで、ドライバー遺伝子異常に特徴的なマイクロRNA・メッセンジャーRNA間の相互作用を網羅的に調べた報告は少ない。そこで、本研究では、EGFR変異肺がんに注目し、EGFR変異肺がんに特徴的なマイクロRNA-メッセンジャーRNA相互作用による発がん・がん進展メカニズムを調べた。52例のEGFR変異肺腺がんと103例のEGFR非変異肺腺がんのマイクロRNA発現とメッセンジャーRNA発現をマイクロアレイにより網羅的に調べ、EGFR変異がんに特徴的に発現する19個のマイクロRNAと431個のメッセンジャーRNAを同定した。統合解析により、EGFR変異がんに特徴的なマイクロRNA-メッセンジャーRNAの相互作用を63ペア同定し、複雑なマイクロRNA-メッセンジャーRNA相互作用をネットワーク化した。その中には、MUC4と3つのマイクロRNA(miR-500a-3p, miR-502-3p, miR-652-3p)の相互作用が含まれていた。EGFR変異肺がんにおいて、これらのマイクロRNAはがん抑制性に作用するMUC4の発現を低下させることで、がん促進性に働いている可能性が示唆された。本研究の網羅的統合発現解析により同定されたEGFR変異肺がんに特徴的なマイクロRNA・メッセンジャーRNA間の相互作用は、EGFR変異肺がんの発がん・がん進展のメカニズムを理解する上で有用であると考えられる。将来的にはマイクロRNAをターゲットとする診断治療戦略に応用されることが期待される。
|