研究実績の概要 |
【背景と目的】前年度の研究でオートファジーマーカーp62の核内集積がデスモイド線維腫症(DF)の特徴として示唆された。DFではβ-Catenin(BCAT)やAPC遺伝子異常に基づくWNT経路の活性化が知られている。このためp62核内集積像の意義や病理診断的価値、BCATとの関連性について検討した。 【方法】DF35例のホルンマリン固定パラフィン包埋材料を用いた。またDFと鑑別が問題となる様々な悪性度の軟部腫瘍52例を対照とした。オートファジーマーカーp62, LC3B及びBCATの発現を核と細胞質に分けて3段階(0,1+,2+)で評価した。さらにDF症例のp62、BCATの核内陽性の割合を計測した。 【結果】DFのp62核内陽性所見(2+)は28/35例(80%)に呈して非DFでは6/52例(12%)で、一方BCATの核内陽性所見(1+,2+)は29/35(83%)、非DFは4/52(8%)であった。p62は感度80%、特異度88%、BCATは各83%、92%であった。また両者及びLC3Bの細胞質内の発現に差異はなかった。DFの核内陽性細胞の割合はp62:0-90%(平均63%)、BCAT:0-95%(平均34%)でいずれかが陽性のDF症例は33/35例(92%)であった。 【考察】p62染色の核内陽性像はDFに特徴的でBCATと同様に診断マーカーとして有用性がある。また両者の組み合わせで診断精度がさらに向上する。WNT経路の活性化によりp62の発現及びオートファジーが抑制される知見があるが、検討結果からDFにおいてもオートファジーの抑制が示唆される。p62の核内集積機序や意義は未だに不明だが、本検討により核細胞質シャトルタンパクであるp62の核移行がWNT経路活性化により誘導され、PML bodyとp62の核内共存によりDFの細胞増殖や転写活性化に関与する可能性が示唆される。
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