研究課題
膵癌患者の予後改善のためには,化学療法を中心とする非切除治療の治療成績の向上が鍵となっており,予後を規定する因子に対応した個別化された分子標的治療の導入およびそのコンパニオン診断法の確立が求められている.本研究は,先行研究として実施した同一患者原発巣・転移巣由来細胞株モデルからの遺伝子発現プロファイル解析により同定した複数のRHO関連タンパク(RRP)群に着目し,本年度は以下の2課題に取り組んだ.[1] DNAマイクロアレイ解析による膵癌27症例のRRP分子の遺伝子発現検討:先行研究において遺伝子発現変動が顕著だったRRP分子(ARHGAP29,DNMBP,TRIO)およびRRPと関係するEMT分子(CDH1, VIM)に着目し,これら分子の遺伝子発現とRho-GAP遺伝子群(54遺伝子)とRho-GEF遺伝子群(71遺伝子)の発現変動の関係についてDNAマイクロアレイ法を用いて検討した.検討した5遺伝子のうち,ARHGAP29発現はRASGRF1,ARHGEF38,NGEF発現と,CDH1発現はTIAM1,RASGRF2,FARP1,ARHGAP32,ARHGAP12,ARHGEF12発現と,VIM発現はARHGEF18,ARHGEF26,ARHGAP27発現と,それぞれ有意な相関(いずれもp<0.01)が認められた.[2] 膵癌TMA標本を用いたRRP分子の臨床病理学的検討:膵癌TMA標本におけるARHGAP29発現検討については前年度に行ったが,新たに抗体バリデーションにてより高いFFPE特異性を示した2抗体を用いて,再度検討を行った.ARHGAP29発現は腫瘍グレード(p<0.009),pT(p<0.006),pStage(p<0.012)と有意な関連性を示した.一方ARHGAP29高発現群および低発現群間で,全生存期間(OS),無病生存期間(DFS)に有意な差は認められなかった.
3: やや遅れている
本研究目的の達成のため,2年目にあたる平成29年度は,当初の予定を一部変更し,[1] DNAマイクロアレイ解析によるRRPの遺伝子発現検討,[2] 膵癌TMA標本を用いたRRPタンパク発現に関する臨床病理学的検討を計画した.[1]については,外科切除された膵癌のFFPE検体を用いて遺伝子発現プロファイル解析を行い,解析データを得ることができ,一定の傾向が得られたものの,RNA品質が低くく,発現変動レンジが小さかったため,検体の再採取および再解析の必要が生じた.[2]については,免疫組織化学的解析を再度行ったことにより,ARHGAP29に関する新たな知見を得られたが,一部の解析が完了しなかった.以上を踏まえ,今年度の研究の進捗については,一部の検討で遅れが見られたことから,自己点検による評価の区分を(3)とした.
3年目にあたる平成30年度においては,以下の2点について検討する.①前年度行った,外科切除された膵癌のFFPE検体に代わり,RNA品質が高いと考えられるEUS-FNAを用いた遺伝子発現プロファイル解析を行う.②前年度に続き,RRP分子や①で抽出された分子について,臨床病理学的検討を進めとともに,in vitroでの解析も併せて実施する.
上記網羅的遺伝子発現解析の実施に遅延が発生し,これを次年度に行うこととしたため,翌年度に一部使用額が生じた.本年度同様,次年度も主に物品費に充てる予定であり,費目別には以下のように計画している.【物品費】遺伝子発現解析関連試薬を購入する予定である.一方,設備備品費は,研究代表者が所属する部門に主要な研究設備が整っており,新たな設備備品の購入は考えていない.【旅費】使用予定はない.【人件費・謝金】該当なし.【その他】本研究で得られた成果を,学会誌等へ投稿することを予定している.研究推進にあたっては,計画に基づき実験を進めていき,研究費を有効活用したい.
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
HPB (Oxford)
巻: 20 ページ: 28-33
10.1016/j.hpb.2017.08.014
J Hepatol
巻: - ページ: Epub
10.1016/j.jhep.2018.01.009
J Gastroenterol Hepatol.
10.1111/jgh.14124
Oncotarget
巻: 8 ページ: Epub
10.18632/oncotarget.22175