研究実績の概要 |
卵巣の上皮性腫瘍の起源は、卵巣表面を覆ういわゆる表層上皮とされてきたが、粘液性腫瘍については、奇形腫由来のものも存在すると推測されてきた。実際、我々は奇形腫に合併した粘液性腫瘍のSTR解析から、奇形腫由来の粘液性腫瘍の存在を証明してきた。奇形腫由来の粘液性腫瘍の粘液形質が、原発性の粘液性腫瘍と異なることを利用して粘液性腫瘍のうち奇形腫由来と推定できる症例があるかどうかを検討することが本研究の主題である。本年度は、卒業研究のテーマとして「成熟奇形腫に合併した粘液性腫瘍の免疫組織化学的検討」を採り上げた。成熟奇形腫と同側に発生した粘液性腫瘍6例(腸型3例、頸管型3例)、対側に発生した粘液性腫瘍2例(腸型1例、頸管型1例)、単独に発生した粘液性腫瘍6例(腸型3例、頸管型3例)について主として粘液形質についての免疫組織化学的検討を行った。使用した抗体はCK(cytokeratin)7,CK20,CDX2,MUC1,MUC2,MUC5AC,MUC6である。その結果、奇形腫と同側に発生した腸型の粘液性腫瘍は、単独に発生した腸型の粘液性腫瘍と異なる粘液形質を有し、成熟奇形腫から二次的に発生した腫瘍であることが示唆された。対側に発生した腸型の粘液性腫瘍は単独発生の腸型の粘液性腫瘍と同様の形質を有していた。単独発生の腸型の粘液性腫瘍は、原発性の腸型粘液性腫瘍の形質を示した。この研究に用いた頸管型の粘液性腫瘍は、現行の分類では漿粘液性腫瘍とされ、粘液性腫瘍とは別の分類の上皮性腫瘍として扱われているが、腸型の粘液性腫瘍と異なる粘液形質を示すことが分かり、粘液形質の染色性の違いが鑑別に有用であることも判明した。さらに関連する研究として、修士論文の研究テーマとして卵巣未熟奇形腫のSTR解析を行い、未熟奇形腫が成熟奇形腫と異なる胚細胞の分化段階から発生することを証明した。
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