研究課題/領域番号 |
16K08701
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
森谷 卓也 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00230160)
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研究分担者 |
紅林 淳一 川崎医科大学, 医学部, 教授 (10248255)
鈴木 貴 東北大学, 医学系研究科, 教授 (10261629)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 乳癌 / 病理 / 早期癌 / 初期浸潤癌 / 非浸潤癌 / 免疫組織化学 / 人体病理学 / 悪性度 |
研究実績の概要 |
乳癌発生過程の多彩性(症例個々の違い)を明らかにする目的で、浸潤性乳癌(進行している癌)においてその悪性度と相関する因子として知られている2つの物質;EZH2(Enhancer of zeste homolog 2)およびIDO1(indoleamine 2,3-dioxygenase 1)を用いて、それらがより早期の癌においてどのような発現をしているのかを検討した。対象は浸潤径5mm以下の早期浸潤癌78例、および乳管内にとどまっており浸潤していない乳管癌(非浸潤性乳管癌)77例の155例の手術標本を用いた。全例女性,年齢分布は20~87歳(中央値51.0歳)であった。抗EZH2(11/EZH2)と、抗IDO1のモノクローナル抗体(ab55305)を用いて免疫組織染色を行った。EZH2は癌細胞の核に、IDO1は細胞質に発現しており、EZH2は48.4%の症例、IDO1陽性は34.2%の症例が陽性であった。この染色結果を他の因子と比較したところ、EZH2は核異型の強さ、HER2過剰発現と正の相関を,ERおよびPgRの発現とは負の相関を認めた(p<0.001)。従って、EZH2は早期乳癌においても悪性度の高い症例で高発現を示す傾向があり、乳癌診療の個別化に向けたマーカーの一つとなりうる可能性が示唆された。IDO1は核異型高度の症例で低発現傾向を示すが、有意差は得られず、他の因子とも有意な相関を認めなかった。しかし、腫瘍免疫に関わる因子など、パラメーターを増やして検討することも必要と思われた。以上の研究成果は第26回日本乳癌学会総会(2018年5月17日、京都市)にてポスター発表の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年間の研究により、早期乳癌における免疫組織学的マーカーの多彩性の検討を行ってきた。その中には腫瘍間質を取り巻く間質成分に関わる因子、腫瘍細胞に付随している筋上皮細胞に関わる因子、腫瘍細胞自体に関わる因子が含まれており、検討内容が多岐にわたっている。最終年度には個々の研究を統合し考察するとともに、より早期のものと目される境界病変(異型病変)における検討マーカーの発現の有無を探索する準備が整ったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
乳腺においては、前癌病変と目されるものは十分に知られておらず、いわゆる境界病変として知られている異型病変(異型乳管過形成、異型小葉過形成、平坦型異型)が、どのような過程で癌に進展するのか、あるいは単なるリスク因子で癌に移行しないものなのか、十分な証拠が得られていない。最終年度には、2年間の成果と、それ以前に研究を行ったマーカーを異型病変に対しても染色し、発現の様子を検討する予定である。直接的な照明にはならないかもしれないが、前癌病変としての可能性や、発癌や非浸潤癌から浸潤癌への移行を推測する予測する因子としての、各種免疫組織学的マーカーの意義について探索し、本課題のまとめとしたい。前年度の研究費の未執行分については、平成30年度交付額と合わせて染色試薬の購入に充てる。
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次年度使用額が生じた理由 |
乳腺の境界病変(異型病変)に対する免疫組織染色を実施する予定としていたが、その前段階として検討を行っている初期浸潤癌、非浸潤癌の二群に対して追加検討を行ったため、新たな染色試薬の支出が発生しなかった。平成30年度の助成金と合わせて一次抗血清を含む未実施分の染色試薬購入に充てる予定である。また、一連の研究成果をまとめて、学会ならびに論文発表するために使用する。
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