研究課題
福島では原発事故当時18歳以下の県民を対象とした甲状腺検査で多くの甲状腺癌が発見され、社会的関心事になっている。甲状腺癌の発生頻度、形態形成、遺伝子変異は人種や地域により差が見られることは知られている。これまでにチェルノブイリ周辺地域と本邦の自然発症性甲状腺癌の病理組織学的検討は十分にはなされていなかった。本研究ではヨード環境の異なるチェルノブイリ周辺と本邦の自然発症性甲状腺癌の病理組織学的な特徴を明らかにし、若年被曝放射線誘発甲状腺癌の形態学的な基礎データとすることを目的としている。チェルノブイリ周辺地域と本邦の成人の自然発症性甲状腺癌の病理組織学的検討を行い報告している(Endocr J 2014)。平成28年度は両地域の小児・青年層の甲状腺癌の病理組織学的検討を計画し実施した。本邦の160症例、ウクライナの188例、合計348の被曝の影響のない小児・青年層の甲状腺癌を用い、臨床病理組織学的検討を行った。主な検討項目は甲状腺乳頭癌の亜型分類、腫瘍サイズ、被膜外浸潤、腫瘍構成成分比率、好酸性化やリンパ球浸潤の程度、リンパ節転移、遠隔転移の有無などである。成人同様に両地域で様々な病理組織学所見に差が見られた。本邦では小児例で腫瘍浸潤性、脈管侵襲、リンパ節転移がチェルノブイリ症例より高く見られた。青年層ではリンパ節転移や乳頭状形態形成がより本邦症例で多くみられた。チェルノブイリ症例では充実性成分、腫瘍多発像がより高頻度に見られた。両地域とも浸潤性は小児群でより多く見られた。この成果は現在投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
論文投稿まで達成でき、次のスッテプに取り掛かっている。
チェルノブイリ周辺と本邦の自然発症性甲状腺癌の臨床病理組織学的検討結果を踏まえ、腫瘍細胞の増殖能や遺伝子変異の差を検討する。増殖能はKi67免疫染色で画像解析を行い、遺伝子変異はBRAF免疫染色でスクリーニングを行い必要に応じ点変異の同定を追加する。次年度は福島の県民検診事業で発見・手術された症例(約160症例)を、同様の方法で評価し、病理組織学的な特徴を明らかにすることを計画している。最終的にはチェルノブイリ周辺地域の放射線被曝関連小児甲状腺癌、自然発症性甲状腺癌、本邦の自然発症性甲状腺癌、福島症例の比較を行い放射線被曝の影響の有無を検討する計画である。
研究補助員が採用できなかったため人件費が発生しなかった。物品費のうち試薬や抗体の費用が他の研究費や在庫分で賄えたために翌年に繰り越すことができた。また、データ解析ソフトやPCは代用できるものを使用し、翌年度の購入に変更した。
前年度購入を控えた試薬や抗体、データ解析ソフトやPCの購入を予定している。研究補助員は現在、募集を行っており、採用により人件費が発生する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件)
Endocr J
巻: in press ページ: 印刷中
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