研究課題
(1)チェルノブイリ組織バンクには、これまでに5321例の組織登録が完了し、推定個人被曝線量の登録が昨年度から開始されている。国内では原爆被爆関連甲状腺がん症例の登録が進んでいる。形態学的には被曝甲状腺癌には一つの決まった特徴はなく、被曝形式により形態学的にも分子生物学的にも多様な形態を呈することを報告した。低ヨード環境は小児甲状腺癌の発生頻度の上昇、潜伏期の短縮、充実性形態変化に影響を及ぼしていることが推察された。(2)低ヨード環境の影響を見る目的で、非被曝成人症例の国際比較検討を行った。本邦とチェルノブイリ周辺地域の被曝歴のない小児と成人の甲状腺乳頭癌症例を用いて臨床病理組織学的検討を行った。その結果、チェルノブイリ症例では小児、成人とも充実性成分を有する症例が多くみられ、ヨード環境や遺伝的背景の差が形態形成に差をもたらすこと、放射線感受性を考える上で環境因子の考慮が必要であることを報告した(Comparative histopathological analysis of sporadic pediatric papillary thyroid carcinoma from Japan and Ukraine. Endocr J. 2017 ; 64(10):977-993.)。(3)共同研究者とDNA修復・遺伝子安定性維持機構の損傷の解析、DNA損傷応答遺伝子の多型性が放射線関連腫瘍発症リスクになっている可能性を報告している。(4)福島県で実施されている若年者のスクリーニングで発見された乳頭癌症例の遺伝子プロファイルを検索し、大部分の症例が古典的乳頭癌形態を呈し、BRAF点突然変異が多く、ret/PTC変異を主とするチェルノブイリ症例とは腫瘍形態、遺伝子変異が大きく異なるという報告を行った。これは放射線被曝の関与を考察する上で極めて重要な研究報告である(Scientific Reports 2015)。
2: おおむね順調に進展している
論文化と論文投稿準備まで達している。
1. 現在、福島では原発事故当時18歳以下の県民を対象とした甲状腺検査で約160症例の甲状腺癌が発見され、社会的関心事になっている。本研究ではチェルノブイリ組織バンクや国内の甲状腺専門病院からの継続的な試料収集を図り、福島県立医科大学との共同研究の推進していく。年齢・性別を一致させた被曝の影響のない日本とウクライナの小児乳頭癌症例、チェルノブイリ原発事故後に発症した小児症例と福島症例を用いて、臨床病理組織学的検討を進めている。本邦症例は隈病院、福島県立医大、チェルノブイリ症例はキエフ内分泌代謝研究所からそれぞれ約120症例を目標に解析を進めている。対象年齢は被曝症例はは事故当時0から20歳とし、形態学的には甲状腺乳頭癌の亜型分類、pT、pEx、腫瘍構成成分比率、好酸性化やリンパ球浸潤の程度、リンパ節転移、遠隔転移の有無、免疫組織化学ではMIB1 index、BRAF変異やP53の発現頻度を解析している。腫瘍構成成分は低分化相当の充実性、索状、島状胞巣と高分化相当の乳頭状や濾胞状成分について比較検討していく。解析には複数の病理医で観察し一致した結果を用い、統計学的解析はSAS packageを用いて行う。この研究成果をもとに福島症例での特徴と被曝の影響を考察する。2. 53BP1蛍光免疫染色による遺伝子安定性維持機構の損傷の解析、小児甲状腺がんのゲノムDNA変異解析は申請期間中、継続的に遂行してく。3年間の成果を元に一定の結論と評価を出し、今後の調査研究の展開を方向付ける。
予想したよりは試薬や抗体の購入費が少なく、人件費も削減できたために予定支出額が抑えられた。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 6件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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