研究実績の概要 |
申請者らは1986年のチェルノブイリ原発事故以来、国内外で先駆けて現地での医療支援活動、国際的な組織バンク事業の運営や学術的な研究成果の発信を継続し、2011年の福島第一原発事故後はスクリーニングで発見された若年者甲状腺癌の病理組織・分子生物学的研究に携わっている。 申請課題の研究目的はチェルノブイリ周辺地域と本邦の自然発症と被曝関連の若年発症甲状腺癌、4群の分子病理学的に比較検討を行うことにある。チェルノブイリ小児症例はウクライナ症例を中心に年齢別、組織型別甲状腺がんの遺伝子異常・再配列のプロファイルを明らかにし、放射線誘発甲状腺がんの特徴を継続的に解析している。本邦症例は放射線関連として福島スクリーニング症例、対照の自然発症症例は甲状腺専門病院症例を用いて解析している。 これまでの研究で「放射線関連甲状腺癌には一つの決まった形態的特徴はなく、被曝形式により形態学的にも分子生物学的にも多様な形態を呈する」ことをチェルノブイリ小児甲状腺癌の病理疫学的な特徴から世界に先駆けて提案した(Thyroid 2008, Br J Cancer, 2004)。この考え方は福島スクリーニング症例の解析からも云えることを確認した。福島県の若年者のスクリーニングで発見された乳頭癌症例の病理形態学的特徴や遺伝子プロファイルは、チェルノブイリ症例とは大きく異なっていた(Cancer Sci 2019, Sci Rep 2015)。チェルノブイリ症例では充実性成分が多くret/PTC変異を主とし、福島症例では乳頭上構造を主とする古典的乳頭癌が多くBRAF点突然変異を主としていた。本邦の自然発症症例と福島症例の形態学的解析は独立した論文として完成させ(EndocriJ 2017, Cancer Sci 2019)、今後4群の比較へと繋げていく。
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