研究実績の概要 |
免疫チェックポイント阻害剤を用いた抗がん免疫療法は、近年、極めて良好な治療成績をおさめている。しかし、その効果は細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocytes, CTLs)によるがん細胞の認識と傷害活性に依存するため、特異的な変異抗原を持たないがん細胞や抗原提示ができないがん細胞は攻撃対象から外れ、治療に不応答となる。またそのようながん細胞が、がんの再発の原因となると考えられる。そのため、CTLsに依存しない新たな抗がん免疫療法の開発研究は依然として重要である。申請者は、腫瘍内に数多く浸潤するミエロイド系免疫細胞の機能コントロールによるがんの治療を目指している。RNAアジュバント(2本鎖RNA)による自然免疫シグナルの活性化によって、腫瘍内に浸潤するミエロイド系免疫細胞が、がん細胞を傷害する抗がんエフェクター細胞に転換することを見出し、新たな抗がん免疫応答のメカニズムの解析を行っている。EL4がん細胞のマウス皮下移植モデルでは、RNAアジュバントの投与によって腫瘍内のCD11b+Ly6G+細胞(顆粒球型ミエロイド由来抑制性細胞granulocytic myeloid-derived suppressor cells, G-MDSCsまたは腫瘍随伴好中球tumor-associated neutrophils, TANs)から活性酸素種/活性窒素種が強く産生され、がん細胞にカスパーゼ8/3経路を介したアポトーシスを誘導して腫瘍の成長を抑えることを見出した。すなわち腫瘍内に浸潤したCD11b+Ly6G+細胞は、腫瘍の成長過程ではサポートに働くが、自然免疫シグナルの活性化によって抗がん活性を付与できることを明らかにした。これらの効果は他のがん細胞株でも同様に見られ、程度の差はあれ多くのがんで有効なメカニズムである可能性が示唆された。
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