研究課題/領域番号 |
16K08705
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
水津 太 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 准教授 (90431379)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Akt / Inversin / 一次繊毛 / 嚢胞腎 / 細胞極性 |
研究実績の概要 |
長い間、一次繊毛(primary cilia; non-motile cilia)は、運動性繊毛(motile cilia)と違い機能を持たない単なる遺残物として見なされてきたが、近年、この一次繊毛が多様な機能を持ち、一次繊毛の欠失や機能異常により嚢胞性腎疾患をはじめ網膜萎縮、肝線維症、多指症、肥満、中枢神経系異常や骨格形成異常などの遺伝性疾患(繊毛病; ciliopathy)が引き起こされることが分かってきた。 繊毛病のうち最も多い症例として、多発性嚢胞腎疾患が挙げられる。この疾患の腎臓尿細管上皮細胞は、平面内細胞極性(planar cell polarity, PCP)が破綻しており、そのため細胞分裂方向(軸)が異常になる。分裂軸異常により、おおよそ尿の流れと垂直方向に分裂が進行し、尿細管が拡張し嚢胞を形成する。その結果、正常な尿の流れが阻害され、重篤な腎疾患をもたらす。PCP破綻の原因として、尿細管細胞表面に存在する一次繊毛の構造的・機能的異常が指摘されているが、未だその分子メカニズムについては不明である。 本研究は、腫瘍や癌組織で高い活性が維持されているセリンスレオニンキナーゼAktによる繊毛タンパクInversinを介した一次繊毛制御機構の存在を証明するプロジェクトである。一次繊毛におけるAkt-Inversinシグナル伝達の重要性が明らかとなれば、細胞極性制 御および疾患分子メカニズム解明に繋がり、更には繊毛病だけでなくAktが関与する癌、糖尿病、心臓病などの様々な疾病に対してこれまでにない治療法に向けた新しいドラッグデザイン方法の開発の可能性が切り開かれ、保健医療への貢献が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までの実績では、Yeast Two Hybridシステムを用いた包括的なスクリーニング法により、Akt特異的に結合する繊毛タンパクInversinを同定し、AktによるInversinのThr-Ser-Thr(864-866)アミノ酸配列のリン酸化が腎細胞の分裂軸の傾き決定および、正しい細胞配向を伴った腎尿細管の三次元構築に必須であることを明らかにしてきた。 本年度では、腎細胞の極性制御にはAkt-Inversinのリン酸化制御だけでなく、Inversinによる正常なWntシグナル伝達制御の重要性を明らかにした。Inversin遺伝子の欠失マウスの表現型は、繊毛病(嚢胞腎や内蔵逆位など)の原因遺伝子として認知されてはいたが、その疾病の分子メカニズムは明らかになっていなかった。本研究で初めて、AktからInversinへのリン酸化シグナル伝達、およびInversinによるWntシグナル調節活性の両者が、Inversin遺伝子欠失によって疾病に至る機序を説明できる重要な分子制御機構である事実を解明できた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析から、原がん遺伝子産物AktによるヒトInversinのリン酸化と、InversinによるWntシグナル伝達調節の両者が、腎細胞の細胞極性制御に重要であることを明らかにした。ヒトInversin遺伝子の変異によって引き起こされる劣性遺伝性の多発性嚢胞腎の多くは、Aktによるリン酸化サイトを欠いていることから、今後ヒト疾患との関わりを追求すべく、ヒト疾患でみつかっているInversin遺伝子変異における細胞極性制御解析を進める。 今後の研究期間内に、Inversin遺伝子の変異体を過剰発現する腎細胞株を作成し、Aktリン酸化サイトが保存されたものとそうでないもの、またそれら変異体におけるWntシグナル伝達の修飾活性を詳細に検討したい。
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