予後不良な膵癌の生物学的特徴である易浸潤性制御している因子を探る目的で研究を行った。まず、ヒト由来膵癌細胞株から高浸潤性細胞株をサブクローニングした。これらの細胞株で発現が亢進している遺伝子を網羅的に解析し、IL-32がmRNAおよび蛋白レベルとも高発現していることを確認した。そこで、IL-32が浸潤性に関与しているかを確認するために、IL-32 siRNAを用いてノックダウンすると浸潤性減弱し、IL-32そのものをノックアウト(KO細胞)すると浸潤性が極端に減弱した。一方、IL-32の強制発現系では、浸潤性を殆ど認めなかった細胞株で浸潤性が増すことを見出した。さらに、膵癌組織において免疫組織学的に検討すると、正常膵管で殆ど認められなかったIL-32が腫瘍細胞において認められ、特に腺管から芽出する部分や浸潤先進部でその陽性部位が増すことが観察され、浸潤性を獲得している部位にIL-32が発現することを見出した。 次に、IL-32によって制御を受ける因子を探ると、E-Cadherinは高浸潤精細胞で減弱する一方、KO細胞では亢進し、MMP4、14、9も制御を受けることが判った。 一方、樹立されたヒト細胞株の多くは、様々な生物学的性格を有したものが混在していると仮定し、限界希釈法で単一細胞性にサブクローニングを行い、膵癌細胞から三つの性格が異なる細胞株を得た。それぞれの細胞は形態のみならず、相互の接着性も異なり、また、これまで浸潤性との関連性が論議されてきたThrombospondin 1、前述のMMP1、14、9、SLUG、BMPおよびE-Cadeherinが固有の細胞に有意に発現が亢進していることが明らかになった。 以上より、IL-32は炎症性サイトカインとしてではなく、腫瘍、特に膵癌において、予後不良を特徴とする易浸潤性において重要な制御因子である可能性が示唆された。
|