研究課題/領域番号 |
16K08708
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
川久保 雅友 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (70397305)
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研究分担者 |
中山 淳 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (10221459)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ピロリ菌感染 / 胃癌 / αGlcNAc |
研究実績の概要 |
胃癌の分子的な癌化の機序を実験的に解明するため,今年度は,癌抑制因子であるαGlcNAc欠損マウスを用いてピロリ菌感染モデルを作出し,病理組織学的検索および分子学的解析を実施した.また,胃MALTリンパ腫の原因となる非ピロリ菌ヘリコバクターの長野県内関連病院にて分離された株についてヘリコバクター特異の遺伝子を解析し,その成果を論文として報告した.今年度の助成金は,主に上記の研究を遂行するための試薬・消耗品の購入費および受託解析費に当てられた.
1. 胃癌抑制因子であるαGlcNAcを欠損したマウスにピロリ菌を感染させることで癌形質の初期の進展を実験的に解明することを目的に,ピロリ菌を雌5週齢の野生型およびαGlcNAc欠損マウスに強制経口投与し,ピロリ菌感染マウスを樹立した.その胃粘膜について病理組織学的検索および分子学的解析を行ったところ,ピロリ菌感染により明らかに変化した結果が得られた.すなわち宿主因子にピロリ菌感染が加わることで症状が重篤化することが示された.なお,この研究を遂行するにあたって,助成金を用いて抗ピロリ菌抗体,DNA抽出試薬を初めとする試薬・消耗品を購入した.また,microRNA発現解析費,実験動物飼育費とした.
2. ピロリ菌感染は,胃癌だけでなく胃MALTリンパ腫の原因となる.胃に感染する非ピロリ菌ヘリコバクター (NHPHs)感染患者はピロリ菌よりも効率に胃MALTリンパ腫を発症する.長野県内関連病院より分離されたNHPHsについてヘリコバクター属が特異的に有している糖転移酵素(αCgT)の解析を行った.αCgTはピロリ菌の感染・生存に必須であり,ピロリ菌感染において極めて重要な物質である.なお,この研究を遂行するにあたっては助成金の一部を使用し,その成果を論文として発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究初年度,雌親の乳幼児食殺などにより繁殖の遅延を余儀なくされたが,本年度は必要動物数が得られ,ピロリ菌感染後10, 20および30週の胃粘膜病変について病理組織学的検索および感染20週後の胃粘膜標本についてmicroRNA発現量の測定を行った.病理組織学的検索結果では,αGlcNAc欠損マウス感染後10, 20および30週のいずれの週齢においても,幽門部にびらんが生じるなどαGlcNAc欠損マウス胃粘膜の非感染時にはみられない症状が発生し顕著な病変の進展が認められた.一方,野生型マウスでは,ピロリ菌感染による粘膜病変は認められなかった.microRNA発現測定データは,データベースを用いて解析を行っているところであるが,感染,炎症,糖鎖発現プロファイルなどに変動がみられている.測定データが膨大であるため,解析継続中である.さらに野生型マウスおよびαGlcNAc欠損マウスの間でピロリ菌感染率の差が観察され,αGlcNAc欠損マウス,野生型マウス間での感染菌量をピロリ菌αCgT遺伝子を用いて詳細に検討するため,新たに感染群を樹立し飼育中である.また,本研究課題において重要な位置づけとなるピロリ菌感染において,ピロリ菌を初めとするヘリコバクター属が持つαCgTは重要な働きを担っているが,新たに臨床分離されたNHPHsのαCgTを本邦で始めて解析し,その成果をHelicobacter誌にて報告した.
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今後の研究の推進方策 |
29年度研究より得られた病理組織学的検索の結果をまとめるとともに,microRNA発現解析データの詳細な解析を継続して行う.飼育中のピロリ菌感染マウスより粘膜を採取し全DNAを抽出して,感染菌量を算出するため定量PCRによりαCgT遺伝子を標的としてピロリ菌DNA量を測定する.以上の結果をまとめ次年度(30年度)前半に論文を作成し投稿する.また,査読内容によって必要な追加実験を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
理由 : 28年度(昨年度),交配によるαGlcNAc欠損マウスの必要数確保ができず遅延を余儀なくされ予定していた研究を実施できず繰り越し額が生じていたが,29年度(本年度)は研究がほぼ順調に遂行できたため,昨年度繰り越し分を含めて本年度計画分をほぼ使用した.しかし動物飼育スペースが限られている関係で順次感染動物を作出しているため,一部感染菌量の評価が実行中となっており,若干の次年度使用額が生じた.
使用計画 : 次年度使用額は,平成30年度請求額と合わせてDNA 抽出 kit,定量PCR試薬等の購入,実験動物飼育費および論文投稿で使用する予定である.
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