研究課題
以下の2点について報告する。1. WDR62は中心体等に局在し、細胞周期の進行、紡錘体制御等において重要な役割を果たすことが報告されている。我々は、頻度の高いヒト腫瘍である肺腺癌におけるWDR62遺伝子異常の病理学的意義について検討している。これまでに肺腺癌でmRNAレベル、蛋白質レベルともに発現が上昇していることを明らかにしてきた。今回、予後との関係を調べると、肺腺癌患者で、WDR62のより高発現を示す群は、Kaplan-Meier法で予後不良を呈することが示された(log-rank P=0.0378)。また、多変量解析を行うと、進行pT、リンパ節転移とともに、WDR62高発現は独立した予後不良予測因子となることが示された(HR=2.032 [1.071-3.777], P=0.0305)。WDR62高発現の肺細胞における影響については、結合因子TPX2と強い発現レベルの相関が肺腺癌で認められたため、肺癌細胞株H1299でWDR62とTPX2を共発現させたところ、他のWDR62結合因子であるAURKAの活性化が示され、さらに中心体過剰複製が示された。両因子発現による中心体過剰複製は、非腫瘍性気管支上皮細胞でも認められた。また、TCGAデータベース解析により、WDR62とTPX2の高発現および発現相関は他の13種の癌でも示され、多くの癌で共通の事象であることが示唆された。これらのことから、肺腺癌におけるWDR62高発現は予後不良因子となり、そこに中心体過剰複製が関与する可能性が考えられた。2.酸化的損傷塩基の除去修復に関わるMUTYHは、OGG1とdouble knockoutさせると、その細胞は、酸化的ストレス誘導下で中心体過剰複製を起こしやすいことが知られている。このMUTYHが前立腺癌で低発現を示し、その低発現はエクソーム解析による総体細胞変異数、G:C to T:A変異数の上昇につながることを示した。MUTYH低発現前立腺癌細胞株は、低DNA修復能を示したため、これが関与したと推測された。
2: おおむね順調に進展している
研究時間を予定どおり確保できており、概ね順調に進展しています。
今後も、(1) 各種がんでの、高い中心体数的異常を示すがんの特徴の同定、(2)各種がんでの、高い中心体数的異常を示すがんの要因の同定、(3) 高い中心体数的異常を示すがんに対する治療法の検討、(4) 研究(1)(2)補完のための、各種がんでの中心体制御・DNA修復遺伝子異常の解析、の柱で研究を進めていく予定です。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件)
Mol Carcinog
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1002/mc.22647
巻: 56(2) ページ: 781-788
10.1002/mc.22509