研究課題
ヒト癌細胞では、好気的環境下でも解糖系が優位に働くグルコース代謝のシフト(Warburg効果)が生じており、環境ストレス下での癌細胞の生存や悪性化進行に密接に関与していると考えられている。Pyruvate dehydrogenase kinase 4 (PDK4) は、解糖系から呼吸鎖への分岐点でピルビン酸をアセチルCoAに代謝するPyruvate dehydrogenase (PDH) を抑制する調節分子であり、解糖と呼吸のバランスを制御するkey regulatorの一つである。本年度は、PDK4阻害活性を持つ低分子化合物(KIS)に注目し、in vitroおよびin vivoの腫瘍モデルを用いてそのWarburg効果抑制活性と抗腫瘍活性を検討し下記の成果を得た。1. ヒト大腸癌細胞株DLD-1、LoVo、 膵臓癌細胞株MIAPaCa-2, Panc-1などについてCryptotanshinone (KIS37)が、1-10μMの低濃度で細胞生存率に影響を与えずに足場非依存性増殖を顕著に抑制することを明らかにした。2. DLD-1, MIAPaCa-2細胞株についてはKIS37によってPDK4の標的であるPDHのリン酸化が抑制され、乳酸産生も抑制されることを明らかにした。また、この濃度ではHaCaTやHEFなどのヒト正常細胞株には細胞毒性を示さないことも明らかにしている。3. MIAPaCa-2細胞株にKIS37を投与すると3次元スフェロイド形成も抑制され、癌幹細胞のマーカーであるCD44やEpCAMの発現が抑制されることも明らかにした。4. MIAPaCa-2細胞株についてはヌードマウスの皮下に移植し腫瘍形成を行わせる実験系において、KIS37を腹腔内投与(20mg/kg)することで腫瘍形成を顕著に抑制できることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
解糖系と呼吸系の分岐点で働くピルビン酸代謝調節分子PDK4の新規阻害剤(KIS37)の処理によってワールブルグ効果がキャンセルされることを大腸癌や膵臓癌などのヒト癌細胞株を用いて明らかにすることができた。また新規PDK4阻害剤はin vitro だけでなくin vivoでも抗腫瘍活性を示すかについても予後の悪い難治性癌である膵臓癌の細胞株MIAPaCa-2を用いて少なくともヌードマウスでの皮下腫瘍移植実験系でその抑制効果を証明することができた。また癌幹細胞の特徴である三次元培養スフェロイド形成能に対する効果とCD44やEpCAMの発現抑制からKIS化合物がが薬剤治療が難しいとされて来た癌幹細胞に対しても効果がある可能性を示した。これらの成果から1年目としては研究が目標に向かって順調に進展していると考えられる。
今後の予定としてはまず、KIS化合物によるin vitroおよびin vivoでの腫瘍抑制のメカニズムを特に癌幹細胞抑制の機構を中心にさらに詳細に解明してゆく。また、我々が樹立した同所性膵臓腫瘍移植マウス実験系や直腸癌を高発する遺伝子改変発癌モデルマウスを用いて、これらPDK4阻害剤の抗腫瘍作用やマウス全体および各臓器における薬剤の副作用を検証してゆく。さらに、この発癌モデル実験系を用いて作用点の異なる既存の抗癌剤との併用で相乗的な増強効果や毒性軽減が可能かどうかについても検討してゆきたい。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (2件)
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