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2017 年度 実施状況報告書

ピルビン酸代謝を標的にする新規低分子化合物による抗腫瘍治療法の確立

研究課題

研究課題/領域番号 16K08711
研究機関滋賀医科大学

研究代表者

井上 寛一  滋賀医科大学, 医学部, 准教授 (30176440)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワードPDK4阻害剤 / ワールブルグ効果 / 膵臓癌 / K-Ras / Cryptotanshinone / mTOR
研究実績の概要

ヒト癌細胞では好気的環境下でも解糖系が有意の働くグルコース代謝のシフト)(Warburg効果)が生じており。環境ストレス下での癌細胞の生存や悪性化進行に密接に関係していると考えられている。PDK4は解糖系から呼吸系への分岐点でピルビン酸をアセチルCoAに代謝するPDHを抑制する調節分子であり解糖と呼吸のバランスを制御するRegulatorの1つである。我々はPDK4阻害活性を持つ低分子化合物(KIS)に着目し、in vitro及びin vivoの腫瘍モデルを用いてその抗腫瘍効果と作用メカニズムをヒト膵臓癌および大腸癌細胞株を中心に解析し下記の成果を得た。
1.KIS37(Cryptotanshinone)は膵臓癌細胞株MIAPaCa-2, Panc-1, 及び大腸癌細胞株に対して1-10μMの底濃度でPDHのリン酸化を抑制し、mutant K-Ras蛋白の発現を抑制することで足場非依存性増殖や3次元スフェロイド形成を抑制することを明らかにした。
2.このとき、膵臓癌細胞株MIAPaCa-2ではK-Rasの下流では非接着培養条件下でPI3K-Akt-mTORのリン酸化が抑えられ、細胞周期のG1-S移行に関わるcyclin D1の発現とRb蛋白のリン酸化もKIS37によって抑えられることを明らかにした。
3.MIAPaCa-2細胞株についてはヌードマウスを用いて膵臓に癌細胞を接種し同所性に膵臓腫瘍を形成させる実験系で、KIS37の腹腔内投与によって膵臓腫瘍の増殖が有意に抑制されることを見いだした。このとき腫瘍組織では増殖の指標であるKi67と幹細胞マーカーであるALDH1A1の発現も抑制されていた。また、肝臓、腎臓、肺、心臓などの腫瘍臓器をはじめ副作用などは見いだされなかった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

解糖系と呼吸系の分岐点で働くピルビン酸代謝調節分子PDK4の新規阻害剤(Cryptotanshinone)の処理によって膵臓癌や大腸癌細胞株の足場非依存性増殖や3次元スフェロイド形成が抑制されるメカニズムとして変異型K-Ras蛋白質の発現抑制が関わっていることを明らかにした。また、この癌遺伝子産物の下流でPI3K-Akt-mTORのシグナルが抑えられ細胞周期制御に関わるcyclin D1の発現とRB蛋白のリン酸化も抑制されることを明らかにした。また。細胞レベルだけでなくin vivo 同所性膵臓腫瘍形成実験でもこの薬剤が膵臓腫瘍の増殖を抑制できることを明らかにした。また、そのメカニズムとして増殖のみならず幹細胞性の抑制も関わっていることも見いだした。これらの成果から2年を終えて研究が目標に向かって順調に進展していると考えられる。

今後の研究の推進方策

今後の予定としては、まずこのPDK4阻害剤によって癌細胞の代謝がどのように変化しているのかをさらに詳細に明らかにしてゆく。また、この薬剤による癌蛋白K-Rasの発現抑制のメカニズムについてもさらに検証してゆく。MIAPaCa-2細胞株についてはヌードマウスを用いた同所性膵臓腫瘍形成実験系で、KIS37の腹腔内投与によって膵臓腫瘍の増殖が有意に抑制されることを見いだした。この腫瘍モデル系を用いてさらに投与量を減らして生体に負担の少ない投与条件を確立してゆきたい。また、作用点の異なる他の抗癌剤と併用で相乗的な増強効果や毒性の軽減が可能かどうかについても検討してゆきたい。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2018 2017

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] Transplantation of iPS-derived tumor cells with a homozygous MHC haplotype induces GRP94 antibody production in MHC-matched macaques.2018

    • 著者名/発表者名
      Ishigaki, H., Maeda, T., Inoue, H., Akagi, T., Sasamura, T., Ishida, H., Inubushi, T., Okahara, J., Shiina, T., Nakamura, M., Otoh, Y., Ogasawara, K.
    • 雑誌名

      Cancer Res.

      巻: 印刷中 ページ: 印刷中

    • DOI

      10.1158/0008-5472.CAN-17-0775.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] eriostin suppresses in vitro invasiveness via PDK1/Akt/mTOR signaling pathway in a orthotopic model of bladder cancer.2017

    • 著者名/発表者名
      Kim, C. J., Tambe, Y., Mukaisho, K., Sugihara, H., Kageyama, S., Kawauchi, A., Inoue, H.
    • 雑誌名

      Oncol. Lett.

      巻: 13 ページ: 4247-4284

    • DOI

      doi.org/10.3892/ol.2017.6004

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Anti-oncogenic activities of cyclin D1b siRNA on human bladder cancer cells via induction of apoptosis and suppression of cancer cell stemness and invasiveness.2017

    • 著者名/発表者名
      Kim, C. J., Terado, T., Tambe, Y., Mukaisho, K., Suguhara, H., Kawauchi, A., Inoue, H.
    • 雑誌名

      Int. J. Oncol.

      巻: 52 ページ: 231-240

    • DOI

      doi: 10.3892/ijo.2017.4194.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] ヒト膵臓癌細胞株のin vivo造腫瘍能と癌幹細胞性に対するPDK4阻害剤の作用2017

    • 著者名/発表者名
      旦部幸博、寺戸勅雄、金哲将、中野洋文、向所賢一、杉原洋行、井上寛一
    • 学会等名
      日本癌学会学術総会
  • [学会発表] Cyclin D1bによるアポトーシス誘導と癌幹細胞特性の抑制を介したヒト膀胱癌細胞に対する抗腫瘍活性の検討2017

    • 著者名/発表者名
      金哲将、寺戸勅雄、旦部幸博、向所賢一、杉原洋行、河内明宏、井上寛一
    • 学会等名
      日本癌学会学術総会

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公開日: 2018-12-17  

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