研究実績の概要 |
本研究の目的は、インスリンシグナルに関与する新規代謝調節因子WDR6の遺伝子改変マウスを作出し、老化病態並びにカロリー制限(CR)の抗老化効果におけるWDR6の機能を明らかにすることである。 本年度は、12ヶ月齢の全身性WDR6 欠損マウス(KO)実験集団の老化病態解析を予定していたが、戻し交配が完了したのが昨年度末であったため、6ヶ月齢での摂食量、体重等の表現型解析を行った。その結果、KOマウスは多食、低体重、高血糖、高体温、攻撃的行動という表現型を示した。これはヒトの甲状腺機能亢進症と合致する点が多い。本計画前に作製した予備的実験群ではKOマウスの視床下部TRHの遺伝子発現量が有意に増加していたことから、WDR6 KOマウスの表現型は甲状腺機能の異常が原因の1つである可能性が高い。甲状腺機能は代謝や老化と密接な関係にあることから、甲状腺におけるWDR6の機能に着目し解析を進める予定である。 タモキシフェン誘導性脳特異的WDR6欠損マウスを用いた本年度実験計画では、戻し交配の完了した実験モデルでの解析を予定していたが、戻し交配が本年度中期に完了したため、現在実験集団を作製中である。本年度は本計画に先行して作製された遺伝的背景が不均一な25ヶ月齢の予備的実験集団の解析を行った。25ヶ月齢時点で殆どの自由摂食群(AL)は自然死しており、寿命に有意差はなかった。KO-CR群では、Cont-CRに比べて白色脂肪組織が増加し、高血糖、高インスリンを示し、その値はAL群に近い。またKO-CRの視床下部において摂食亢進ペプチドNPY, AGRP遺伝子発現がCont-CRと比較して有意に減少し、摂食抑制ペプチドPOMC, CART遺伝子発現が有意に増加した。これらの結果は、WDR6が視床下部の神経ペプチド発現に関与しており、全体の代謝にも影響を与えていることを示唆している。
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