研究実績の概要 |
カロリー制限によって視床下部で抑制され、インスリン受容体基質IRS4に結合する分子WDR6について、昨年度までにcre-loxPシステムによる全身性WDR6欠損マウス(KO)を作出し、今年度は戻し交配完了後の表現型解析を行い、下記の知見を得た。 WDR6 KOマウスは、12週齢以降に摂食量は有意に増えるが、体重は有意に減少するか、あるいは変化しない。63週齢では、脂肪重量が著しく減少し、脾臓重量は有意に増加した。またリンパ節腫大、高体温、体毛の白化、脱毛、炎症等の皮膚病変、下肢の腫れ、歩行異常が観察された。当初甲状腺原発性の異常と予測したが、血中TSHは減少するも、T3,T4に有意差がなく、病理学的観察でも甲状腺に異常がないことから、他に原因があると考えられた。視床下部の摂食亢進ペプチドNPY遺伝子の発現は有意に高く、抑制ペプチドCARTの発現は低く、摂食量の増加と一致した。血球検査では、白血球、リンパ球、単球が有意に減少し、顆粒球が増加した。赤血球数、赤血球当たりのヘモグロビン含有量が有意に減少し、貧血症状が認められた。下肢部分の病理学的解析では、KOマウスの関節周囲の線維化と軟骨の異常形成が観察された。リンパ節と脾臓のフローサイトメトリー解析の結果、野生型に対してKOマウスのT細胞、B細胞、形質細胞の比率に有意差はなく、樹状細胞・単球系の比率が増加しており、表現型に見られる炎症は自然免疫系が主体である可能性が高い。これらの症状は臨床であれば老化現象よりも、むしろ自己炎症性疾患が該当する可能性が高い。興味深いことに同じWDRファミリーであるWDR1変異マウスは自己炎症性疾患モデルとして報告されており、その表現型はWDR6 KOマウスとよく似ている。当初の想定とは異なるが、今後更にWDR6の機能解析を進め新たな自己炎症性疾患動物モデルの構築と治療方法開発等への応用を目指す。
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