研究実績の概要 |
1) 放射線誘発甲状腺発がんとオートファジー関連遺伝子 被曝後16ヶ月後の発がん率は若齢で44.4%(対照0%)、高齢では14.3%(対照14.3%)と、若齢被曝で有意に高率であった。ラット甲状腺がん組織でのオートファジー調整因子とオートファジー構成因子の発現をリアルタイムRT-PCRにより解析した。結果として、被曝群ではCxcr4, Cdkn2a, Ctss, Tnfの発現が増加し、若週齢被曝群ではTgfb1の発現増加が見られた。一方、オートファゴゾーム形成に必須の構成因子Atg4b, Atg5は若齢被曝群で発現低下を認めた。オートファジー誘導は放射線照射後ストレス下での適応反応の可能性があり、加齢によるオートファジー不全が、若齢被曝の発がんリスク亢進因子の候補として示唆される。 2) ラット放射線誘発甲状腺発がんリスク亢進の分子刻印探索 7週齢ラットにX線0.1, 1, 4Gyを前頚部局所照射後6、12、16ヶ月後に甲状腺を摘除しRNAを抽出、遺伝子発現を網羅的にmicroarray解析し、判明した遺伝子変化を定量RT-PCRで確認した。非照射群では腫瘍発生は認めず、照射群では16ヶ月後に0.1, 1, 4Gy照射で各々4, 16.6, 33.3%に発がんを認めた。4Gy照射16ヶ月後の非腫瘍組織では610遺伝子の発現増加があり、ATM関連DNA損傷応答や細胞周期調節系の有意な変化を認めた。非照射群と比較し照射群では腫瘍、非腫瘍組織ともに、ATMと53BP1発現は低下、cdkn1a発現は亢進、cldn9発現は低下を示すことが判明した。放射線被曝甲状腺のがん化にはDNA損傷応答の低下、細胞老化亢進、細胞接着因子の低下が寄与していて、これらの分子発現の変化はradiation signatureとなる可能性が示唆される。
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